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□Sad clown〜No trick No life!〜(TD)
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曰く、優れた奇術師は3つの段階を構成し、手品をするという。まず物体にタネも仕掛けもない事を確認させるプレッジ、そして何の仕掛けも無い道具でパフォーマンスを展開するターン、けれどもその上の段階、パフォーマンスのその先でもう一つ。驚きをもたらす何かを見せるのがプレステージ、すなわち『偉業』なんだそうだ。
私の場合は―奇術師のつもりなど毛頭ないけど―、プレッジの段階をカッ飛ばしてオーディエンスが望むと望まざるとに関わらず、好き勝手に披露するわけだが。
じゃあ、ここで問題だ。
時に偉業すら成し遂げてしまう奇術師が最も恐れる事はなんだろう?
それはトリックがバレてしまう事だと、大多数が答えるだろう。
だが本当はそれよりも、厄介なのはトリックを見抜いたうえで黙って奇術師の道化っぷりを見物する人間なんだ。
Sad clown〜No trick No life!〜
彼の夢の中に入り込んだのはいつものごとく、気まぐれだ。
今日の彼の夢。
それはどこかの小奇麗なチャペル。木漏れ日がステンドグラス越しに入ってくるなかで彼は誰もいない礼拝堂の中、参列席に座り穏やかに目を閉じている。それも前列の背に足を乗っけて。
「おいおい、めずらしいもんだな。夢の中でだけ信心深くなったりするのか、ディーン」
「…キャスにアンナにお前。天使ってのはつくづく俺のプライバシーを無視するんだな」
横に立てば、重そうな睫毛をゆるゆると開け、嫌そうに見上げてきたので肩をすくめてオーバーリアクション。
「私は天使じゃないぞ」
緑の瞳が私を静かに見据えた。ただ無言で。
いつもこうだ。
彼は私が何か喋ったりするたびに、つたない手品でも見たかのような能面を向けるのだ。
まだやるのか?もうタネも仕掛けも看破っちまったのに″
まるでそう言いたげに。