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心中にちらつく棘(CD)

「ディーン、君は私をどう思っているのだろうか」

私がそう尋ねると、彼は驚いて持っていた酒を取り落とした。

「きゅ、急に何だ」
「君の口から特に聞いた事が無い」
「別に俺がどう思ってたってお前は気にしないで後ろくっついてくるくせに。お構いなしじゃねぇか」

「嫌なのか」
「う、えっと、その……」
「嫌か」

距離をせばめてみれば後ずさりする。
寄せては返す波のよう、と言うよりも、触ろうとするとするりと逃げる猫のようだ。

しばらく待っていると、下を見ながら彼が呟いた。

「俺が嫌って言うか、お前が俺の傍にいて嫌にならねぇのかなって時々、思う」
「私が?」

「義務として俺を見てなきゃいけないってのを知ってるから。ほら、戦いを始めたヤツは俺なわけだから俺から目を離すなーとか言われてんだろ」

「確かに、ザカリアにそう言われた事はあるが義務では無い。今は完全に労働時間外だ」

残業手当など、あるはずもない。というより、こうやって任務も無いのに彼と会っている事がザカライアに知られたら、私は窮地に立つだろう。

お前は働き者だなと彼が寂しそうに笑った。
以前にも似たような事を彼に聞いたのを思い出しながら、私は聞いた。

「義務で無ければ君の傍にいてはいけないのか」
「え?」

「どうも君は、君の周りにいる者は全て義務で君に付き合っていると思っているふしがあるようだ。その対象がボビー・シンガーや君に近しい者であればある程、そのように引け目を負う」

その最たる者が、君の弟だ。
未だに彼をつき合わせていると感じているだろう。自分は価値の無い者だと卑下するのは何故なんだ。

君はいつもそうだ。

感じた事の無い感情がふつふつと胸を焼くので、あえぐように呼吸をしながら立ち上がった。

「サミュエルは、義務で君に付き添っているわけではない」
「な……何怒ってんだよ」

「そのように思われているのは彼としても心外だろうし、私としても遺憾だ」

なんだろうか、この感情は。

棘がささったような、ちくちくと痛む感じがする。彼の自己犠牲は尊いと思っていたはずなのに。

今はそうは思えない。

もっと自分を大事にしてくれと、世界が、他の誰がどうなっても君が無事ならば私はそれでいいのだと、そんな醜い事を言ってしまいそうで。

棘がちらつく。
ぐるぐると、浸食する螺旋。

このままではいけない、今日はもう彼の前から消えようと身をひるがえした時、飛ぼうとした背に重力がかかって振り返る。私の背に、彼がすがりついていた。

「ディーン」
「…………」

まだ行くなよ、と空に溶けそうな彼の声をすくう。

「怒らせたなら悪かった」
「ああ」

「そばにいてくれ」
「義務としてか」

目線を上げた彼の目は、酒のせいか若干潤んでいた。

「……お前が、義務じゃなくて俺のそばにいてくれれば嬉しいなって、いつも思ってる」
「そうか」

「俺がお前の事、どう思ってるかって話だが…で、できればだけど離れないでほしいって俺は思う」

たどたどしく語る言葉は、まるで小さな子のようだったが、心にちらつく棘はもう感じなかった。

ずっと、その言葉が君の口から出てくるのを待っていたんだ、ディーン。
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