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夢の中の逢瀬

「最近、なんだかサムが変だ」

呼ばれて行った途端、ディーンの開口一番がそのセリフだったので私は思わず目をすがめた。

「彼が変なのは前からではないのか」

いや、そうなんだけど。と前置きをしつつ、彼が腕を組みながら話す事には、

眠ったかと思うと、うなされたりニヤニヤしたり、うろたえたりと百面相を夜な夜な繰り返す。旅を始めた当初、よく見ていたらしい悪夢の時とは違うが、こうも毎日だと心配になってくる。もしや兄ちゃんに黙って変な薬でも飲んでいるのか。

と、疑念に行きついてしまったので私を呼んだらしい。

「私に、彼の夢の中へ入れと」
「俺の夢の中にだってプライバシーおかまいなしに入ってくるんだからサムにだって入れるんだろ」

「入れるが私は、君以外の人間に対して夢の中で干渉はできない。そのように能力を制限されている。だから夢の中で何かが起こったとしても何もできないが」

「え、そうなのか?まあ様子を見てくるだけでいい。何かあったら俺に知らせてくれれば、それで」

「……わかった」

てっきり彼は私と話をする為に呼んでくれたと思ったのに。ほんの少し、面白くない、と感じた。



……暗い。どこかのホールのような場所に、サミュエルの夢は繋がっていた。見まわすと、舞台の前にサミュエルの後ろ姿が見えたので歩きだす。

「……見返りは何だ」

真剣な彼の声。「見返り」…夢の中で契約をさせられそうになっている?サキュバスか何かに狙われているのだろうかと前へ進む足も自然と速くなる。

「いやいや、だから私はね、君たち兄弟と仲良くしたいわけだよ、判るかい?」

少し遠くに、聞いた事のない男の声がした。

「だって、こうも毎晩……」

サミュエルの後ろに立ち、彼の視線の先―、舞台の上をつられて見た時、警戒も思考も何もかもが止まった。

そこには、いかがわしい色のライトと、とても大きな(これもまた、いかがわしい色の)ベッドが置いてあって、その上に、

「サム、どうした?早く来いよ〜」

下着姿のディーンが、いた。

私が固まっている間にも、サミュエルと男の会話は続く。

「こうも毎晩、あんなディーンを夢に出しといて見返り無いとかウソつくなよ!」
「いやいやいや、だから仲良くなりたいだけなんだってば。あ、もしかして足りない?もっといろいろなお兄ちゃんを出してほしいの?」

「な……んだと……?量産型ディーンができるのか!?」
「そぉれ、ちちんぷいぷい☆」

『俺、お前とやりたいんだ……』(通常)
『勘違いすんなよな、お前の為じゃないんだからな!俺が一人旅するの嫌なだけなんだから!』(ツンデレ)
『愛してる、サム。大好き!』(素直)
『変態。この化け物。デカブツ』(女王様)

男がパチンと指を鳴らしたかと思うと、次の瞬間には舞台の上のベッドに、ディーンが量産されて現れた。

「いいの?ねぇ、本当に好きにしていいの?僕はディーンハーレムしていいの?」

「いいとも。ただでさえ君には何回も火曜をやり直させたりとヒドい事しちゃったしねー。仲直り仲直り」



「ディーン、ディーン!」
「ふぉ!?何だ、もう帰ってきたのか?」

時計を見れば、サムの夢に入れと頼んでから10分も経っていない。俺がうたた寝から起きると、キャスは大急ぎでサムの方へ行き、その頭を問答無用ではたいた。

「!…あ、あれ?今いいとこだったのに…あれ?」

ベッドをずり落ちて寝ぼけてる弟と、けわしい顔の天使を見比べて慌てて聞いてみる。

「やっぱ、なんかあやしい夢だったのか!?」
「…………」

「もしかして悪魔と契約してたとか!?おい、黙って首を横に振るな!何なんだよ、一体!」
「遅すぎたんだ……」

「お、遅かった!?」

「もう手遅れだ、いろいろと」
「な、何が?何が!?」

「サミュエルはもう末期だ」

(゚Д゚)

「とりあえず悪魔よけを貼るべき」
そう言いながら肩を落とし、その日は去って行った。数日後、キャスはアンナの所でこうつぶやいたらしい。

「干渉できたなら私だって…私だって、さわりたかった。さわりたかったんだ、あのハーレムを…」

意味は判らないが、半泣きで頭を抱えていたというのだから、サムの夢は、よっぽどひどい悪夢だったのだろうかと少し罪悪感を感じた。
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