SPN

□Bad apple〜Hungry Spider〜
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悪魔の血が切れると、ひどく気が高ぶる。
今の自分なら、何でもできそうな気分になるけれど、その一方で生じるのは、暗闇に飲みこまれそうな、どうしようもない不安感。

暗く、深く、どんよりとした沼の中で、ゆっくりと死んでゆくような沈没。
取り込まれそうになる。足が抜けなくなる。
腰まで飲みこまれ、あがけばあがくほど、深く、どん底へ。

「―サム、」
よどんでゆく僕を呼ぶ声が、ふいに沼を照らした。
その声は、ぐい、と僕の手を引っ張って、もがいていた沼地から、いとも容易く引き上げる。
僕一人ではどれだけもがいてもあがいても、抜けだせない暗い場所から、いつだって。
覗き込んでくる鮮やかなグリーンの光に、僕はほんの少し目を細めた。
安モーテルの狭い部屋の中。隣のベッドからディーンが心配そうに手を伸ばし、僕の手を掴んでいた。
「大丈夫か?」
「ちょっとダメかも」
逃がしたくなくて、彼の手を掴み直す。抵抗は無かった。僕がどこかへ堕ちてゆく時ですら、彼は僕を見捨てることをしない。
そう判りきっているから、知っているから、ずるい僕は彼にしがみつく。
わざと弱々しく微笑めば、「俺もダメだ、なんか腹へってさ」
ディーンは快活に微笑んでベッドから起き上がる。
手を引き離されて思わず追いかけようと起こした身を、軽く笑いながら押し戻された。
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