お題企画

□微笑む
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25.微笑む
(ナツグレ過去捏造)










オレがギルドに入ってから数ヵ月が経とうとしていた頃だった。
仲間とはだいぶ打ち解け、仕事にも少しずつ行くようになって…
イグニールがいなくなって、悲しみに暮れていた時と比べ、充実した毎日だった。
だけど、一人だけ、オレをもやもやさせるヤツがいた。

グレイ・フルバスターという少年だった。

氷の造形魔導士。
幼いながらも立派な造形魔法を扱えると聞いた…実際、まだ一度も見たことはなかった。
出会ったときに一度話しかけたことはあったが、グレイに無視され、喧嘩に発達してしまった。
エルザに止められたけど。
それ以来だった。
それに、グレイは一度も笑った顔を見せてはくれなかった。
周りがどんなにバカ騒ぎをしていても、グレイは一人ギルドの隅で本を読んで静かにしていた。
カナやエルザが話しかけても、態度は冷たい。
二人曰く、
「出会った頃はあんなに冷たいやつじゃなくて、もっと笑ってた」
…らしい。

そんな彼をオレはなぜかほおっておく事ができなかった。
こんな気持ち、持った事がない。
どうしたんだろう…そんな疑問の言葉を胸に、オレはグレイのもとへと走るのだった。



オレは毎日グレイのもとに向かって行った。
笑ってほしかった。
ただそれだけ。
グレイはというと、オレから遠ざかろうとする。
だが、諦めなかった。
そんな日が続いて、二週間が経た。



「カナ!グレイは?」
「裏口から出ていったわよ」
「おぅ!さんきゅーっ」

ギルドに着くなりグレイを探し、場所が分かるとそこへ直行。かかった時間は一分とない。早いものだ。
すれちがい際にカナがポツリと呟いたのだか、グレイの事でいっぱいだったオレは聞こえなかった。

『ナツはホントに、グレイが好きなのね』










「アイスメイク…“盾”!!」

裏口から外に出ると、遠くからグレイの声が聞こえた。
物陰に隠れ、その様子を見る。

グレイの手に冷気が集まる。
それが、氷となって形となる。
その氷は立派で、日の光をうけより一層輝いていた。
…初めて見た、グレイの魔法。
「(すげぇ…)」
綺麗な氷を造り出した彼に、近付こうとしたときだった。

「…まだまだ、こんなもんじゃダメだ…!
ウルのような造形にはほど遠い…





炎にも…勝てない…!!」

…そういうグレイの手は震えていた。


「(!もしかして、)」



オレは、グレイのことがもっと知りたくて、妖精の尻尾マスター:マカロフにグレイのことを聞いたことがあった。
グレイは昔、自分が住んでいた街を悪魔によって失った。
燃え盛る炎の中、グレイは一人生き残った。
幼いころの出来事。
心の傷になっていないわけがない…
そう言っていたのを覚えている。


「炎が怖えのか、グレイ」


「っ!!?」


グレイはオレの声に吃驚した表情で振り返った。


「そ、そんなわけねぇだろ!何をてめぇは…ッ」


「じゃあその震えてる手は何だよ」


「っ!!」


指摘してやると、グレイは背に手を隠し、うつむいた。


「ここに来る前のことで、炎が怖いんじゃないのか?」


「知ってんのか、お前…
…あぁ、そうだよ、情けねぇよな」


グレイはその場に座り、自分の心の内をポツポツと話し始めた。


「お前はもう知ってるだろうけど、オレの住んでた街は厄災の悪魔に壊滅されたんだ。

気付いたら母さんも父さんも友達も全部失ってた。

街は火の海でな…その時の情景がまだ頭に残ってるんだ…

だから、初めてお前と喧嘩した時に見た炎で思いだして、怖くなった。

…これから先、炎を扱う魔導士と出会うことがあるだろうから…

こんなことで怖がってたらいけねぇって…」


そういうグレイは、震えていた。
俯いているせいで、表情が分からない。


必死に恐怖に立ち向かおうとする彼。
それは、彼が造り出す氷よりも何倍も美しかった。
…彼を、支えてやりたい。
心の奥でそんな気持ちがオレの背中を押した。


考えるより先に、身体と口が動いていた。


オレは、震えるグレイをぎゅ、と抱きしめた。


「!!ナツ…?」


「大丈夫、怖がらなくていいんだ。
あの時の炎は、お前の全てを奪っていった…
だけどオレの炎はどんな事があっても、グレイを傷つけない!
…みんなを、守るための炎だ…だから、


…大丈夫、一緒に、乗り越えていこう」


…しばらく、静寂がオレ達を包む。

オレの心はドキドキしたままだった。

今の発言、おかしくなかったかな…とか、傷つけてないかな…とか。
マイナス思考になってくる。




グレイをそっと離す。
するとグレイはオレの目を見て口を開いた。
…その目に恐怖はなく、またいつもオレを見るときの目ではなく…
優しい表情をしていた。


「…ナツって、おかしな奴だよな」


「え?」


「オレはいっつもお前のこと無視したり遠ざかったりしたのにさ、
一緒に乗り越えようとか言うし、
ホント、おかしな奴」


「な…」


「でもまぁ、元気出た。




…ありがとう、ナツ。」



グレイは優しく微笑んだ。

その笑顔でオレは、先ほどまでのドキドキとは違うものを感じていた。

それは、不思議な気持ちだった。
誰にも教わってない、この気持ち…
なんだ、これ。


「…ナツ?」


「えっ!あ、いや!!なんでもない!!!」



この気持ちに気付くのは、もう少し先のこと…






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





「…で、その綺麗な笑顔に惚れたと」


「おぅ!!!あの時のグレイはかわいかったぞ!」


「…そう」


そして今。
妖精の尻尾ギルドでルーシィとグレイについてのお話中だ。
グレイに魅かれた理由を教えてと…


「ホント、アンタたちは仲が悪いのかラブラブなのか…」


「ラブラブに決まってるだろ?」


「…はいはい」


半分呆れ気味のルーシィ。
と、そこへ


「ナツ、そろそろいかねぇと列車間に合わねぇぞ」


「グレイ!!」


グレイが、一枚の紙を持ってこっちにやっ
てきた。
今から依頼に行くのだ。
もちろん…グレイと二人で。


「じゃあルーシィ、オレ行ってくるから!」


「はいはい、行ってらっしゃい!」


オレは席を立ちあがると、妖精の尻尾を後にして、マグノリア駅へと急ぐのだった。


「(いいな、あの二人、幸せそうで。)」


幸せそうな二人の背中を見送ると、ルーシィは手に持っていた本を開き、物語の世界へと飛び込んでいくのだった…。





fin





Special Thanks!:)sweets様

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