お題企画

□守る
1ページ/1ページ

93.守る
(ナツグレ)





ちくしょう、何でだ…!
もう遅いとわかっていながら、オレは心の中で酷く後悔した。
目の前には、血塗れのグレイが横たわっている。
すぐそばにいたのに、何で気付いてやれなかったんだ。
…何で、守ってやれなかったんだ。
ぎり、と歯を喰い縛り、グレイに視線を戻す。
意識はないようだが、胸は微かに上下している。
──よかった、まだ息がある。
急いでギルドに連れて帰れば、グレイは助かる。
そう思って、衝撃を与えないよう、優しく抱き抱えようとした。
刹那、


「…っ、!」


ふいに感じた人の気配。
振り向くより早く、後ろにいたそいつの腹につかさず蹴りを入れる。
オレに蹴り飛ばされた奴の後ろには、驚くほど何人もの敵が集まっていて。
まだ残っていやがったのか、と無意識に舌打ちをした。
今回は、グレイと二人だけで仕事に来た。
オレがグレイと二人きりで仕事をしたくて、エルザやルーシィには別の仕事に行ってもらったのだ。
いつも四人──ハッピー入れて五人で仕事に来るオレ達。
二人で来るなんて滅多になかったため、グレイは反対していた。
──二人だけで来て、何かあったらどうすんだ、と。
だが、オレは聞かなかった。
自分の身は自分で守れるし、グレイに何かあれば、オレが守ればいいと思った。
だから、責任はオレにある。
責任持って、オレが最後まで守らなくちゃいけない。
動かないグレイの身体をゆっくり抱えあげ、壁に寄り掛からせると、敵に向き直る。
キッと睨み付けると、気味が悪いくらいに妖しい笑みを浮かべて、手をぽきりと鳴らした。


「一人で何が出来るってんだよ?」

「うるせぇ、来るなら来い」


グレイは絶対にオレが守る。





 * * *

 * * *





「ナツ達、遅いわねー」


同じ時間に仕事に出発し、もうとっくにギルドに帰って来たルーシィたち。
いくら同じ時間に出発したとはいえ、多少時間差が出てくるのはわかるが、あまりにも遅すぎではないか。
そう思い、だんだんと心配になってきた時だった。
がちゃりとギルドの扉が開いて、ルーシィはそちらに視線を移した。


「ナツ、グレイ!やっと帰って来…」


ルーシィは目を見開いて、思わずそこで言葉を遮ってしまった。
扉の方を見れば、血塗れのグレイを横抱きにした傷だらけで、ぼろぼろになったナツの姿。
彼が歩いてきたであろう道に、ところどころ血の水滴が落ちている。
ルーシィやエルザが慌てて駆け付けると、ナツはその場にどさっと膝をついた。
エルザが血相を変えて、詰め寄る。


「ナツ!どうしたんだ、その傷は!」

「グレイを…」

「え?」

「グレイを助けて…っ」


顔をあげたナツの目には、涙が溜まっていて。
エルザはエルフマンに、グレイを医務室まで運ぶように言い、ナツの手当てを始める。


「なんて無茶を…。一体何があったんだ」

「……っ」


エルザが訊ねると、ナツは今までのことをゆっくりと話し出した。
あれから一人で敵を倒したナツだったが、数が多すぎてとても無傷ではいられなかった。
そのため、どうしても時間がかかってしまい、完全に止血をしていなかったグレイの身体からは、血が流れるばかりで。
とても危険な状態だったという。
いくら呼びかけてもぴくりとも反応を示さないグレイに、気をおかしくしたナツは慌てて彼を抱き抱え、慌てて現場からギルドまで走って帰って来たのだ。


「オレの、せいで…っオレが、二人で行こ
うなんて言ったから…!」


──ぽん、と。
エルザは泣きじゃくるナツの頭に手を置くと、そのまま桜色の髪を優しく撫でた。
ナツが不思議そうに顔をあげると、エルザは微かに笑みを浮かべる。


「よく頑張ったな。グレイは助かるぞ」


顔が思ったより青くない、と言ってナツの頭から手を放す。
そのままエルザが立ち上がると、ナツも一緒に立ち上がった。
その身体には、彼女の手によって器用に包帯が巻かれている。


「ほんとか…?」


「あぁ。ただ、あのまま放っておいたら確実に死んでいただろうな」


その言葉に、その場にいた全員が血の気が引いていく感覚を覚えた。
でも、とエルザが続ける。


「お前がちゃんと守った」


再度頭を、今度は乱暴にくしゃっと撫でた。


「お前は仲間を守った。誇りに思え」


そう言ったエルザの後ろから、ミラとが安心したような表情で、グレイなら大丈夫よと報告に来てくれた。
その言葉にオレは安心の溜め息を吐くと、同時に力が抜けてしまい、そのまま意識を飛ばした。





 * * *

 * * *





目を覚ますと、目の前は白い天井。そこは、医務室だった。
──身体中が痛い。
しかも、疲労で指一本すら動かせない。


「ナツが目を覚ましたわよ!」


ルーシィの声とともに、オレが寝ているベッドのまわりに、たくさん人が集まった。
驚いて視線をあちこちにやると、一番近くにいたのは恋人のグレイで。
──あぁ、グレイは助かったんだと改めて感じ、自然と笑みが溢れた。


「グレイ…無事でよかった」

「ナツ…っ!ナツ、よかった…もう起きないかと思っ、…ひっく」


横になっているオレの胸に顔を埋め、肩を揺らして泣きじゃくるグレイの頭を、動かない手を必死に動かして優しく撫でてやる。


「オレ、そんなに寝てた?」

「一週間も寝てたんだぞ…!」

「マジか!わ、悪ぃ…心配かけて」


にっこり笑って答えると、グレイは涙を拭ってオレに抱きついてきた。


「無茶すんなよ、ばかナツ…。でも、ありがとう」


守ってくれて、と耳元で小さく聞こえた。
彼の身体に視線をやると、傷は大分癒えているようだった。

───お前は仲間を守った。誇りに思え。
エルザの言葉を思い出す。
そうだ、オレは守ったんだ。
グレイを、愛する人を守ることができた。
今、こうしてオレの胸にすがり付いている。
涙を流している。

───生きている。

そう思うと目の奥が熱くなり、視界がぼやけた。
やがてそれは水滴になると、頬を伝って溢れ落ちた。


「なーに、泣いてんのよ」


気付いたルーシィが、からかい気味にオレに言う。
それを隠すように、両手でグレイを抱き締めると、肩に顔を埋めた。


「知らねぇよっ」


何で泣いてるかなんて、嬉しいからに決まってる。


「グレイ、生きててよかった」


これからも、オレの大切な人はオレが守る。










Special Thanks!:)光様

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ