疾走少年

□初めて名を呼ばれると言うこと
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「兄上...」

暫く歩いてから昌親が口を開いた

「なんだ?」

「どこに行くんですか?」

「お前こそ」

「いえ、私はこっちに少し用があるので」

「奇遇だな弟よ。俺もだ」

ドタドタと足音が響く
二人の歩く早さは最初の頃に比べたらかなり早い

「こっちには昌浩の部屋しか無いぞ」

成親が歩を緩めずに前を見ながら口を開いた

昌浩は半年前に生まれた歳の離れた弟である
かなり歳の離れているので、可愛くて可愛くて仕方がない
それは昌親も同じで━━

「そうですね...あぁそう言えば昌浩が父上と母上の名前を呼んだそうですね」

「らしいな」

この間、昌浩が父と母の名前を呼んだのだと嬉しそうに母の露樹が言ってきた

「次は誰の名前を呼ぶと思いますか?」

「俺だな」

「その自信はどっからくるんですか...私かも知れませんよ」

「そう言うのは兄の俺に譲ってくれても良いだろう」

「関係ありません」

二人の歩く早さは早歩きから駆け足に変わっていた。我先にと昌浩の部屋に向かう


目的の昌浩の部屋に着いた

どちらかが戸に手を掛けかけた時、中から微かな神気と声が漏れてきた

この神気は...

中に入るのを止め、少し開けた戸の隙間からこっそりの中を盗み見ると中に居たのは神気から感じた通り十二神将凶将騰蛇だった

いつもの苛烈な神気ではなく、昌浩が傍に居るためか微かに感じる程度で、しかも、いつもよりも柔らかく感じる

それだけでも十分驚く事なのだが、その後の光景を見て二人は目を見張った

「と、と」

「なんだ昌浩。俺の名前覚えてくれたのか」

昌浩が騰蛇の方を指さし一生懸命に名を呼ぼうとしているのだ


暇を見つけては昌浩の元に行き、名前を覚えて貰おうとしていたのに...

自分の名前を呼ばれる前に、めったに姿を見せない騰蛇に先を越されてしまうなんて


あの騰蛇が笑顔で昌浩を抱き上げているのはこの際関係ない



いや、それもかなり驚いたが

それでも、先に名前を呼ばれた事を羨ましく、そして憎く思える

「…兄上」

「なにも言うな」

二人はソッと戸を閉めて肩を落として部屋へと帰っていった




初めて名を呼ばれると言うこと

それは何よりも楽しみで、先を越されると腹が立つもの


END
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