春夏秋冬

□春の空
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屋上へと続く長い階段を上りきると、外に出るためのドアが現れた

本来しっかり施錠されているはずのそれは、ノブを回すとあっさりと開いた

ガチャ

暗い廊下に光が漏れる

眩しさに目を細め、なれた時に現れた光景は春の透き通った青空だった

飛び降り自殺防止のためか屋上のギリギリに設置されたフェンスは高く登るには苦労しそうだ

そんなフェンスの上に青空を見上げながら煙草を吹かす少年の姿がある

「秋」

名を呼ぶと少年はゆっくりと振り返った

「…――もう"秋"じゃないよ」

少年はニッと笑う

「じゃあ何て呼べばいい?」

「好きなように」

少し考えてふと、思いついた

「……よん」

「何?僕にマフラーと眼鏡をして微笑んどけって事?」

「違う。今まで4つの季節の名前を使ってきただろ。だから四季、、とか」

言ってしまってから激しく後悔した
少年の事だからバカにした笑いを散々続けて最後に人をバカにした言葉を吐くだろう

しかし、予想は外れた

「四季、ね」

噛みしめるように呟いたあと、花が綻ぶように笑う

「実際、全然まったく、これっぽっちも期待してなかったんだけど、ゼロイチにしては上出来」

少年のバカにした物言いは癪に触ったが、いつもの事なので流しておいた

「何で居るんだ?」

つい数週間前に別れた
もう会うことは無いだろうと思ったのだが、今こうして目の前にいる

「………ぬるま湯に長く浸かっていたら風邪ひくよ」

暫く間を置き少年は唐突もなく呟いた

「けど、心地よかったんだろ」

だから、名残惜しくてここに居るんだろ?
と、ゼロイチは心の中で付け足した

「………」

後ろ姿からは感情が読みとれない

「…………雨」

暫くして少年は空を仰いで呟いた

言葉につられて空を見てみるが、さっきと変わらず透き通った春の空だった

「雨なんて…」

言いかけたその時、少年は軽やかにフェンスから降りてスタスタとこちらにやってきた

「……降るから気をつけた方が良いよ」

横を通り過ぎるときにドコから出したのか傘を無理矢理押しつけて、扉の方へと向かう

「おい…」

「……まぁ、たまにはぬるま湯も気持ちいいよね」

少年の口から出た珍しい素直な言葉に驚いて、「じゃぁ」と言って扉の向こうに満面の笑みとともに消えた少年のアトを追うのを忘れてしまった

しばらくして気づいた時に慌てて扉を開けるもそこにはただ暗闇が続くだけだった

「……」

もう出会うことは無いのかも知れない

だが、

また逢う気がする

明日か数年後か数十年後か

一度付いた縁は消えないから

「……またな」

だから、この言葉を




少年が通った後には雫の跡が一つあった

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