春夏秋冬

□雨と飴
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「今日も雨かぁ」

リベザルは窓を開けて外を見上げていた

7月半ばもうそろそろ梅雨明け宣言が出ても良いのに、気象庁が出し惜しみをしているのか、まだ宣言は出されていない

「こう雨ばっか続くと洗濯物が乾かなくて困るね」

乾燥機から洗濯物を取り出して来た座木が答えた

「師匠がどうにかしてくれないかなぁ…」

「なんだ?人をアメフラシみたいに。僕に頼むより下駄を投げた方が良いんじゃないか?」

いつの間にか下の階から上がってきた秋がリベザルの横で空を覗く

「下駄…?」

「そっ下駄」

くるりと窓に背を預けるように姿勢を変えて、秋は煙草を手にして火を点ける―――が、湿気っているようで中々点かない

「昔の人は下駄を投げて天気を占ったんだ。」

火を点けるのを諦めたのか手で煙草を弄んでいる

「へー凄いです」

「凄いかはともかく、発想が面白いよね。そう言うの僕は嫌いじゃない……にしてもよく降るなぁ」

火を点けるわけでも無く口にたばこを加え直して外を眺める

「んーあっそうだ!!」

「どうしたんです?」

「えっとーどこに置いたっけ…あぁそうそう」

パチン

秋は指を鳴らしてビニール傘と青い液体が入った小瓶を呼び出した

「リベザルこれ持ってベランダに出て」

「ベランダにですか?」

リベザルは秋に促されてベランダに出て傘を指した

空は所々に雲の切れ目が出来て薄日が指し始めている

「そう。んでもってこれを…」

ビンのフタを開けて勢い良く空に撒く

「うわぁー」

撒かれた青い液体の雫が陽に反射してとても綺麗だ

   パチバチパチ

その光景に見惚れていると傘に衝撃があった

足元を見ると青いコンペイトウが散らばっている

何で飴が――…?

不思議に思い空を見上げると、雨粒の替わりにコンペイトウが降っていた

その光景もまた綺麗

「うし!成功だな」

秋は器用に降る飴を掴むと口の中に放りこんだ

「んー味も上々」

「秋、何なんですか?その液体は」

「コレ?これは最近作った薬の中で最も自信作の薬さ。雨を飴に換えるなんて幻想的だろ?」

この人はたまに不可解な薬を造る

「…もしかして、その為に最近の依頼は受けなかったのですか?」

「そんな事より、良いのかリベザル?飴全部落ちるぞ」

座木の抗議を無視して秋はリベザルに向き直る

「えっ!?嫌です!!」

慌てて落ちてくる飴を掴もうとするけど、飴はリベザルの指の間を通り抜けてしまう

「馬鹿だなぁこうすれば良いじゃないか」

秋はリベザルから傘を奪い取ると、グルンと宙で一回転させた
一回転した傘の内側には飴が貯まっている

「師匠凄いです!!」

「……はぁー。自分で気付いて欲しかったな」

秋のその言葉を聞いてリベザルは反射的に目を瞑った。高速デコピンが飛んでくると思ったから

「痛っ」

でも、実際飛んできたのは一粒のコンペイトウだった

「………こんな事されちゃ怒る気に無くすよな」

「小犬みたいですね」

「そうか?老犬でも同じ反応すると思うぞ。それともこいつの大きさからか?」

座木は微笑うだけで言葉は返さない

「もしそうなら、僕は成犬でザキは老犬って事になるな」

えっ?
リベザルには二人の会話の内容が分からない。なぜ『気付く』話から『犬』の話に変わってるんだろう?

「おっともうこんな時間だ」

秋は持っていた傘をリベザルに押しつけて玄関の方へと歩いていく

「どこかに行かれるのですか?」

「直也とバスケをしに」

ドアノブに手をかけながら振り返った

「木鈴さんお元気ですか?」

「元気元気。近くに体育館出来たからバスケしようって誘われてたんだ」

「なら、店を閉めなければいけませんね」

もし特別な薬の注文や仕事の依頼が来たら座木では対応できないから

「心配するな。もう閉めてきた―――それじゃあ行ってきます」

「行ってらっしゃい」

座木は秋の姿を苦笑いで見送る

ベランダから前の坂を見るとまだ雨に濡れている坂を秋がスケボーに乗って下っていくのが見えた

いつの間にか雨は止んでいる

秋が走り去った方と反対―山の方を見ると綺麗な虹がかかっていた

「兄貴!虹です虹!!」

「本当、綺麗な虹だね」





――ある夏の日の午後の事

END

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