春夏秋冬

□いつの日か…
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御探偵事務所

山の雪も溶けて、気象庁が桜の開花宣言を出すこの時期
秋は電車を乗り継いでここまでやってきた

コンコン

「開いてるぞー」

ノックをすると中からよく知った声が聞こえた

「こんにちわ〜」

「おう。なんだチビか」

目的の人――ここの探偵所の主人でもある御真鶴はソファーに座り何かの書類を見ていた

「はい。つるちゃん。これ借りてた本ありがと」

今日部屋の掃除(半ば強制的にザキにやらされた)をしていたら半年ほど前に借りた本が出てきた。そのうち返そうと思ったらザキに今すぐ返すように言われた

今朝本を見つけて、今はもう日が傾きかけている。
こんな時間になったのは『忘れていたお詫び』と言う理由でザキがお菓子を焼いていたから

「面白かったろ?」

「うん!…―それより、その格好どうしたの?」

いつもは大体スーツを着ているのに今日は白い繋ぎを着ていて、そして何故か横に掃除機が置いてある

「似合うか?」

「ハードボイルドでは無いね」

「そうか…いやな、依頼人から妖怪退治を頼まれてな」

真鶴はテーブルに置いてある書類に目を落とした

「その格好はどっちかって言うと幽霊退治じゃない?」

その格好は少し前の幽霊退治の映画か、もしくはスーパー兄弟の弟が主役のゲームの格好を思い出す

「―そうか!!それは気づかなかった」

しまったと真鶴は膝を叩く

「それにしても妖怪退治って、新しい資格でも取ったの?」

「心霊写真検定の2級なら持ってるが妖怪退治のは無いな」

「へー」

「今度陰陽師辺りの資格を狙うかな」

そんな資格あるのだろうか












…―――

「――ねぇ」

秋が声のトーンを落として俯き加減で尋ねる

「なんだ?」

「妖怪を…退治するね?」

「依頼だからな」

「捕まえる?」

「そうだな」

「殺すの?」

「その必要があるば」

今の時代、人と妖怪の溝は深い。
――でも、この人は、と思う。直也の様に妖怪を受け入れてくれれば。と

「………実は僕…妖怪なんだ」

「それで?」

真鶴は書類を見たまま顔を上げない

「驚かないの?」

拒絶されるのを――淡い期待はあったけれど――覚悟で話したのに余りにも真鶴の態度が素っ気なく拍子抜けした

「チビはチビだ。妖怪だろうが金魚だろうが、ゴキ…はちょっと嫌だな」

次々と生き物の名前を挙げていき、果てには観葉植物まで挙げ始めた

「退治しないの?」

「俺が依頼されたのは、家に憑いた妖怪の退治であってチビの退治じゃない」

―ならば

「依頼されれば僕を退治する?」

「金によるかな……あぁそんな顔をするな冗談だ。チビみたいな奴を退治しろって言うなら依頼人を退治するさ」

立ち上がり真鶴は不適に笑い、秋の頭をポンポンと叩く

「はは。ありがと。つるちゃん」

秋は照れた笑みを浮かべた
「そうだ!チビ、妖怪なんだな?なら仕事に着いてこい」

「えっ?何で??」

「そっちの方が仕事がやりやすそうだから」

「…高いよ?」

「岡目屋で好きなだけ食わしてやる」

「のった!!」

「じゃあチビをこれに…」

何処からかお揃いの白い繋ぎを出してきた

「それは嫌」

「やっぱり?」






例え溝が深くても、皆が僕たちを嫌っている訳ではないんだ

――いつかまた、皆が笑って過ごせる日が来ればいい

END
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