疾走少年

□ありがとう
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「どうかしたの?」

ふと気が付くと昌浩が顔をのぞきこんでいた

こんなに近づかれるまで部屋に入ってきたことさえも気が付かなかっただなんて……

最近ボーっとし過ぎてるなぁと自分でも思う

心配そうにのぞき込む昌浩に何でもないと、笑って答えた

「そう…?でも最近よくボーっとしてるよね」

「え、…そうかしら」

ボーっとしているのは自分でも知っていたがそれは一人で居るときだけで昌浩たちには気づかれていないと思っていた

ただそれは自分が「思っていた」だけで周りの人には分かっていたらしい

「大丈夫よ昌浩」

「彰子がそう言うのなら大丈夫なんだろうけど…何かあったら俺やもっくんに言ってね」

「ありがとう」

そう言って昌浩は部屋から出ていった



別に何もない。

ただ…ただ、たまに寂しくなるだけで

昌浩が居て、もっくんが居て、吉昌様や露樹様が居て毎日楽しいのだけれど、たまに昔を思い出して寂しくなる

……大丈夫








「……い、ま……おい!昌浩聞いているのか!?」

「へ、え?あぁ聞いてる聞いてる」

「嘘つけ。部屋に帰ってきてからずーっと上の空のくせに。何かあったか?」

うーん。と昌浩は腕を組んで唸った

「大丈夫…なんだろうけど……」

大丈夫そうには見えなかったんだよなぁ…
家族なんだから辛いなら辛いって言ってくれれば良いんだけど……そう言ってもきっと彰子は大丈夫って言うんだろな

「は?」

昌浩が何を言っているか分からない物の怪は気の抜けた声を出した

「何とか出来ないかなぁ」

彰子を元気付ける事ができる━━━━━

「おい…」

「あっ!!」

声をかけようとした物の怪を遮って昌浩は声を上げた

またこれかよ……
物の怪はうなだれる

そんな物の怪を気にもせず、昌浩は物の怪の首襟を掴まえて立ち上がった

「もっくん!ちょっと出かけるよ!!」

「は、はぁ!?」









「……」

大丈夫

と言ったものの、一度表に出た感情は中々消えてはくれなかった

目を閉じて浮かぶ光景は両親と過ごした時間ではなくて、昌浩たちと過ごした楽しい時間

なのに何故寂しくなるのだろうか


「彰子ー」

パタパタと言う足音とともに昌浩が部屋に入ってきた


両手に抱えきれないほどの花を抱えて


「おい昌浩ー花落ちてるぞ」

後から、落ちた花を器用に前足で抱えた物の怪が入ってきた

「どうしたの?」

「彰子が元気無かったから…」

はいっ、と昌浩は花を彰子に花を渡す

「綺麗……」

花の甘い香りが鼻を擽る

昌浩の方を見ると、目が合うなり手を後ろに回して何かを隠している風だった

「昌浩、手どうかしたの?」

「え゛何でもないよ」

立ち上がって、後ずさる昌浩の手を掴んで見てみると細かい傷かいくつもついていた

「えーっと、これは……その…あ、そう!今日部屋を片づけた時にー」

しどろもどろになりながら言い訳をする昌浩の後ろで物の怪が笑っている

この手の傷は、きっと花を摘んだ時についたものだろう

彰子は昌浩の手を両手で包み込み微笑んだ

「…ありがとう」

「えっと…、どういたしまして」

照れくさそうに昌浩も笑う

「この花どこに咲いていたの?」

「これはー…」

たまに寂しくなる時もあるけれど、昌浩が、みんなが"寂しさ"以上に"幸せ"を与えてくれる

私も少しは幸せをあげられているのかな?

ありがとう

心配してくれて、花を摘んできてくれて、

傍にいさせてくれて……

ありがとう


END

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