疾走少年

□星の綺麗な夜に
1ページ/2ページ

昼の蒼と夜の闇が混ざる時刻

まだ明るい中空には三日月が浮かび闇に呑まれた天空には幾千もの星が瞬いている

「騰蛇」

名を呼ばれ振り返ると、勾陣が腕を組んでこちらを見ていた

「姿が見えないと思ったらこんな所に居たのか」

「あぁ」

また空へと目を向ける

吉昌の所に子が生まれると晴明に呼ばれ久しぶりに異界から人界に降りてきた
が、他の神将達に遭うのが億劫なため、こうして屋根の上で空を眺めてた

「もうすぐ生まれるみたいだぞ」

「そうか」

騰蛇はさして気に留めてない風に言う

実際、まったく気に留めてなどいなかった

吉昌の所に子が生まれようとも、吉平の所に子が生まれようとも、俺にはまったく関係ない

晴明は子が生まれるたびに俺を人界に呼ぶが、正直止めてほしい
赤子は俺が傍に居ると泣くのだから。

吉平の子の時も、先に生まれた吉昌の子の時も俺が近くに居るだけで畏怖の念が籠もった泣き声を上げた

赤子は純真。
それゆえ残酷だ。

「騰蛇」

「何だ?」

「次の赤子は分からないぞ」

「分かるさ」

生まれてくる子も、先に生まれた子達のように俺が近付けば泣くに決まっている
「決め付けるのはよくない。それにー」

「…?」

「晴明が言っていたが、生まれてくる子は前の子達とは違うらしい」

「どうだか」

いつの間にか、空は完全に闇に覆われていた
その中で、相変わらず嫌味なくらいに星が光輝いている



それから暫らくして、下が急に騒がしくなった

「おぎゃぁー」

その中心に居るのは生まれたばかりの新しい命

存在を証明するかのように力強い泣き声が夜空に響き渡る

「生まれたようだな」

「……」

勾陣に促され騰蛇は渋々といった体で立ち上がった

二人は下へと降りてゆく



星の綺麗な夜、騰蛇のこれからを変える一つの命が生まれた

END
あとがき→
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ