疾走少年

□影を追え【微掲載中】
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【じい様VS孫】

「何で居るんですか…」

邸に着いた昌浩は自室に入ろうと妻戸を引いた所で固まった

ここは自分の部屋
見まごうなき自分の部屋

なのになぜが戸を開けると……

じい様が書を読みながら寛いる

一瞬部屋を間違えたのかと思った

「ふぉっふぉ、お帰り昌浩や」

「ただ今戻りました」

嫌な顔をしながらも返事をする昌浩を見て、教育が行き届いているなと物の怪は感心する

「で、何で俺の部屋にいるんです?」

相変わらず昌浩は立ち尽くしたまま

「いや、なに。彰子様がわしの部屋を掃除してくださってるのじゃよ」

「…………自分でやれよ」

ボソッと呟いた。
足元に居る物の怪に聞こえても部屋に中央に居るじい様には聞こえないと思ったのだが――

「ん?何か言ったか?」

「いえ。別に」

地獄耳の持ち主か

「それと、昌浩に用があったので待っとったのじゃ」

「右京の通りがかりの人を邸に引き摺り込む妖を祓ってこいとか言うんでしょう?」

「なんじゃ知っておるのか」

やっぱり。そんな気がしてたけど

「と、言うことでちょっと言って祓ってこい」

「………じい様…じい様はいつも、ちょっとそこまで行ってこいみたいな軽さで言うけど、下手したら俺の命が無くなるって考えたりしないのですか?」

「そこで死んだらそれだけの器だったってことじゃ。妖を祓うぐらい片手でやって除けなければ、陰陽師に向かんわい」

と、晴明は持っていた扇で口元を隠しながら笑った

また昌浩で遊んでるよ…

「……………………………………………………………………………じい様」

数秒の沈黙のあと昌浩は口を開いた

「何じゃ?」

「ちょっとやりたい事があるので部屋を出ていただけますか?」

昌浩は今まで見たこともない完璧な作り笑顔を浮かべた

大体はここで、壮絶な言い争いが始まるのだが、今回はそれが無い。
それどころか、怒りを一欠けらも感じさせない笑顔。
傍から見れば普通に話ているようにしか見えないのだが
……空気が刺すように冷たいのは気のせいか?

「そうか?じゃあわしはこれで。邪魔したな」

昌浩のその言葉を聞いてやっと晴明は腰を上げた

「えぇ」

笑顔で晴明を見送る

このまま済んで欲しい
物の怪は心の奥底からそう思う

…まぁ無理だわな

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