輪廻の火
□史実
1ページ/19ページ
知った声に言葉を掛けられ、シルヴィスは明らかに安堵した。
「ザナック。じゃあここは…」
目的の国へ辿り着けた喜びが、使者という立場を忘れさせた。
だが、それも束の間。
平常を取り戻した視界にまず入ったのは、突き付けられた槍だった。
「貴様! 口のきき方に気を付けぬか!」
向けられた槍の意味を理解する前に、切っ先は喉元に迫っていた。
そのまま喉を突き刺しそうなそれを止めたのは、やはりザナックだった。
「いいよ。案内の中で彼の人為りはわかってる。それに、彼は僕の立場は知らない」
「はっ。…ですが、知らぬのなら尚の事、教えてやるべきかと」
穏やかな声で諌められ、槍は下ろされた。だが彼は、畏まりながらも食い下がった。
その態度で、ザナックがかなりの立場にある存在だとわかる。
同時に、シルヴィスに対するザナックの寛容さが窺えた。