創作物

□小説
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 だがタイミングよくチャイムが鳴ったおかげで、彼女達からはその場では何も言われ無かった。険悪な雰囲気の中、それぞれ自分の席に座っていく。

 その後すぐに先生が何食わぬ顔でやって来て、何にも気がつかずに出席を取っていく。たまに嫌な視線を感じたが、極力気にしないことに決めた。

「――ということで、お前等、今日も一日頑張れよ。大学受験も近いんだからなー」

 いつの間にか連絡事項も言い終え、担任が教室から出て行った。それとほぼ入れ違いで国語教師が教室に入ってくる。

 教師が「今日は昨日の続きからだ」と言って教科書を開かせる。私は机の中から教科書やらノートやらを引っ張り出し、ぱらぱらと指定されたページを開いた。その時、

「あっ」

 一瞬、我が目を疑った。教科書がみるみると赤く染まっていったのだ。視線の先を教科書から手へと移せば、右手の指先から血が溢れていることに気がつく。じくじくと、気がついた途端そこが痛み出した。

「い、痛……」

 どうやら教科書に剃刀が仕掛けられていたらしい。教科書の横に落ちている、血に濡れたそれがその事を物語っていた。

「あれえ? 阿河さんどうしたの〜?」

 にやついた顔で近くの女子が聞いてきた。数箇所から忍び笑いが漏れる。教師は気がついているのかいないのか、黒板に向かってチョークを走らせ続けていた。ルイス・キャロルという作家についての説明を書いているようだが、何度も書き間違いをしては消していた。

「な、何でもないよ。ちょっと紙で切っただけ」

 聞いてきた女子に向かって目も合わせずに答えた。そんな私を彼女はせせら笑いながら見ている。

「ふうん? ”紙”で、ね? ……あっ、そうだ。阿河さん、ちょっと聞いたんだけどサ。また人の彼氏、盗ったんだってね。全然、懲りないねぇ」

「え?」

 身に覚えの無い事を言われ、思わず声が裏返る。口元だけ笑わせながら、その女子は続けて口を開いた。

「とぼけないでよ。本当、阿河さんってやる事成す事、みーんな汚いよね」

「でも私、今まで彼氏とか居たこと、無いよ……」

 その女子は、私をじとっとした陰湿な目で見る。その女子だけではなく、複数の同じ目が私を見ていた。
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