創作物

□小説
14ページ/17ページ


「起きれば目は覚めるよ」


 若い、男の声だった。

 突然降って湧いた声に驚き、振り向く。その声の主は、私のすぐ後ろに腰を降ろしていた。少しでも首を曲げれば視界に入る位置だ。

 面食らう私の目と、青紫色の目とがかち合う。すっとその目が糸のように細められ、にんまり顔になった。

 いつからこの人は此処にいたのだろう。私が寝転がっていた時、近くには誰もいなかったはずだが。単に私が気が付かなかっただけだろうか。注意深く見回したわけではないため、その可能性はある。

 ふと気付けば、相手はじろじろと無遠慮に私を見ていた。まるで珍獣か何かを観察するような目だ。少なくとも、見ず知らずの相手に向けるようなものではない。何故私はそんな目を向けられているのだろう。

「そんなに驚くことかい?」

 物言わぬ私に、その人は小首を傾げた。

「まぁいいや。それより体はもういいの」

「え、……あ、痛っ」

 驚きによって忘れていた痛みが、彼の一言で戻ってきてしまった。

 彼は何が楽しいというのだろう。私が痛がる様を見てなお口元をにやつかせている。いや、むしろ更に深まったようだ。

 二、三度深呼吸をしてから、相手をよく見返してみた。

 彼は私より随分と背が高そうだった。顔つきはようやく十代後半といった感じで、いわゆる童顔という奴だ。目が少し大きいからかもしれない。その顔を手入れもろくにされていないような、無造作な赤紫色の髪が縁取っている。随分と奇抜な色だが、何故か染めたような不自然さはなかった。

 自分も相手を観察していると、その口がふいに動いた。

「ねぇ。君、名前は?」

 今日の空模様でも尋ねているような調子だ。

「私は阿河ロキです。……あの、貴方は?」

「僕? 僕はガット・リデル・ティトー。導(しるべ)だよ」

 今度はこちらが首を傾げた。導とは何のことだろう。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ