創作物
□小説
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「誰か、居るの」
きょろきょろと辺りを見渡しても、相変わらずの暗闇で何も見えない。ただ、その中でも確かに聞こえる、何かが崩れていく様な小さな音。一瞬、「彼」かと思ったが、どう聞いても足音や、衣擦れ等、人が出すような音に聞こえなかった。
次第に顔が引きつっていくのが嫌でも分かった。
何も見えないせいか、普段より聴覚が研ぎ澄まされているらしい。おかげで私の耳は、その”音”がゆっくり、だが確実にこちらに近づいて来ている事を知らせた。
それに畏怖を覚えた頭は「逃げろ、逃げろ」と急き立て始める。だが、竦み上がった足にまではそれが伝わらないらしく、石の様に固まったまま動こうとしない。
その間にも音は近づき、岩石が落ちる様な重苦しいものに変わっていた。
逃げる事も出来ず、声すら上げられず、ただただ自分を抱く様に、ぎりぎりと両袖を握り締める。
一際重苦しい音が辺りに響いた後、ぴたりと何事も無かったかの様に静まり返った。
「……な、何だったの?」
まだ心臓はバクバクと高鳴っている。だが頭が何もなさそうだと判断した途端、ふーっと気が緩んだ。袖を握り締めていた手の力が、ゆっくりと抜け落ちていく。
その時だ。
足元から轟音が鳴り響き、唐突に浮遊感が私を包む。私の足元が抜けていた。
「ひっ、……きゃあぁあああ!」
永久の暗闇の中、私は奈落の底へと落ちていった。