創作物
□小説
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「……っ」
無造作に机の横に掛けられたカバンを引っ掴むと、教師に理由は特に言わず、ただ「保健室に行ってきます」とだけ伝え、足早に出口へ向かう。教師の方も頷いただけで何も言ってはこなかった。暗に「もう戻る気は無い」と宣言しているカバンについても何も言わない。
背で冷笑が私を見送っていた。
静まり返った廊下を一人、歩く。切った場所が悪かったのか、指からは未だに血が流れていた。じわりと押さえていたハンカチを赤く濡らしていく。
「なんか、もう嫌だな」
赤いハンカチを眺めながらぽつりと呟く。
大多数の人が生きていればいつか良い事があると言う。が、私には到底信じられない事だった。確かに長く生きていれば一つくらい、良い事があるかもしれない。
だがそれは受け手のによって、ころころと変わる物だろう。ちょっとした事でも「良い事」と思える人もいるし、他人が羨む様な事でも「悪い事」と思う人もいる。
「なら、私には”良い事”はいつまで経っても来ないんだ」
私はきっと後者の人間だ。人生、初段で人間の汚い部分を知った人間は、一生心の何処かで人間を恐れ続ける。そんな人間に物事を明るく見れるはずが無い。
何に対しても裏を感じてしまうから。
指先では血が光っている。 これはどう見れば“いい事”になるというのだろう。
「何処かに私も生きていて楽しい場所って、あるのかな」
少なくとも今より楽しいのなら、別にこの世界でなくとも構いはしないのに。