TRESURE
□silence
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up 2010.7.6
「さよなら。リン」
その言葉は最後にレンが言った言葉。
あの日からどれくらいたっただろう。
レンが家をでていった理由はわからない。
考えても考えても答えは出ない。
ただ胸に静寂だけが残って、わたしの気持ちは焦がれるばかり。
レンが出ていったあの日___。
「レ〜ン!そんなおっきな荷物持ってどこいくの?」
まだ寒い冬の朝、レンは玄関に座っていた。
「父さんと母さんにはもう言ったけど、東京でひとり暮らしするんだ。」
靴紐を結びながら淡々とレンは言った。
「え?どうして?そんなのリン聞いてないよ...」
あまりにも突然のことに目を見開いて呆然とする。
「リンに言ったら絶対反対するだろ!だから黙ってたんだよ。」
面倒臭そうにそう言って荷物を持とうとする。
「なんで?!そんなの嫌だよ。リンを置いていくの?レンは寂しくないの?」
泣きそうになりながら、でもまだ信じられなくてレンにしがみついて問いただす。
「別に寂しくないよ。はぁ...泣くなよ。もうそうゆうのうざったい。」
冷たく言い放ちながらわたしを引きはがし、玄関のドアを開けていく。
そしてわたしの方を見ずに俯いて、ぽつりとあの最後の言葉を言って出ていった。
そして、あの言葉を聞いて以来わたしはレンに会っていない。
よくふたりで並んで歩いたこの道を、
今はひとり陽射しの強くなった空を仰ぎながらそんなことを考える。
最後の日のレンはいつもと違ってわたしを拒絶するみたいで怖かった。
今まで毎日一緒にいて、たくさん笑いあって、ずっとふたりで居たのに。
幸せだったのに。
それはわたしだけで、レンにとってはうざったかったのかな。
わたしのこと、嫌になっちゃったのかな。
パパもママもレンが居なくなってから出掛けてばかりで、なんだか家の中も静かになった。
今、もしわたしに翼が生えたら、すぐにでもレンのもとに飛んで行きたいのに。
でもまたレンに拒絶されるのが怖くて怖くて...
きっと翼が生えてもどこにも飛び立てないで地に伏せることしかできないだろう。
寂しくて、会いたくて、また笑いあいたくて。
でも怖くて。
そんなことばかり繰り返し考えることしかできなかった。
暑さも和らいできたある日、ハパとママが話しがあると言ってきた。
そんなに改まってどうしたんだろうなんて考えながら、居間のソファーに腰をかけた。
「リン...今まで黙っていてすまなかった。」
何時になく真剣にハパは言った。
「ほんとはね、ちゃんとリンにも言ったほうがいいって...思ってたのよ。」
泣きながら言うママ。
そんなふたりの様子に戸惑って、なにも言えないわたしにパパは言った。
「辛い治療だった。だけどレンは頑張ってたよ。髪も抜けて痩せ細っても、もう一度元気な姿でリンに会いたいからって。それが目標だからって。最後の最期まで_。」
ねぇ...レン。
どうして言ってくれなかったの?
どうして治らないかもしれない病気になったって言ってくれなかったの?
元気な姿になって、わたしのもとに帰ってくる為に頑張ったなんてレンは馬鹿だね。
どんなレンでもわたしは隣にいることが出来たらそれが幸せなのに。
わたしは泣き虫だけどレンの側にいたかった。
出来るだけ隣で笑っていたかったよ。
最期のときも一緒にいたかった。
ねぇレンの声をもう一度聞きたいよ。
もう一度手を繋いで歩きたいよ。
まだこの手にはレンの温もりがあるのに。
わたしの願いはもう二度と叶わない。
write.朽葉椿
end.
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