Twins Butterfly

□scene*C -Rin-
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        up 2010.6.19




「うーん…。」


部活が終わって携帯をチェックした私は、それを見つめながら、眉をひそめた。


「なぁに、唸ってんだぁリン?」


急に頭の上に重みが掛かって、体が前のめりになる。

私はその顔を不満げに見上げた。


「ルキくん重いー!!」


そんな私の文句にむしろ面白そうに口元を上げる。

本当に意地悪。


「で?何で携帯を睨み付けてんだよ?」


やっと腕をはずしてくれたと思ったら、今度は携帯を取り上げられた。


「あぁ!!ちょっと返してよ!!」


伸ばした手は空を切る。

私の頭一個ぶん背の高いルキくんは、わざわざ携帯を自分の頭の上に持って行く。

そのディスプレイに映されたメールの文面を見て、彼はため息をつく。


「何だよ、レンからじゃん。」


呆れた様に、と言うよりやっぱりなと言いたげにルキくんは私を見た。


「で?何がそんな不満な訳?」


携帯をどうにか奪い取る私に、ルキくんは首を傾げる。

私はその目を反らして、剥れた様に口を尖らす。


「何か…レンのメールが冷たい。」

ボソッとそれに答える。


「いつもと変わらないメールに見えたけど?
それにレンが冷たいのは今に始まった事じゃねーじゃん。」


私の顔を覗きこんで言うルキくんの顔を、少し睨む。


「それはそうだけど…
何かいつもと違うんだもん…!」


そんな私を見て、彼は目を少し伏せてため息をつく。


「本当にブラコンだな、リンは。
そんなんで、レンに彼女が出来たらどうすんだよ?」


その言葉に、目を見開いた。


考えた事もなかった。


レンに会いたい。触れたい。

そんな自分の気持ちを押さえるのに必死で、誰かの存在なんて気にもしてなかった。


言い返す言葉すら見つからなくて、口を紡ぐ。


「ウソだよ。悪かった。」


ルキくんはそんな私の頭をポンポンと、撫でてくれた。

意地悪だけど、本当によくわかってくれている。

さすが幼なじみ。

その優しさが嬉しかった。




今日はママの誕生日。

ママには悪いけど、レンに会える事が楽しみで仕方ない。

先月に会った時に、はぐれない様に引いてくれた手首の温もりを思い出すと、顔が緩んじゃう。

それなのに…なんとなく、この1週間レンの様子がおかしい。

気がする。


たぶん双子の私達じゃなきゃ気付かない、小さな変化。


メールの入れ方。
声のトーン。


その些細な事が気になる。



ルキくんのさっきの言葉が頭をよぎる。

それを振り払うように頭を振ると、ルキくんと分かれて帰り道を小走りする。


前なら真っ暗だった空は少しだけ日が伸びて、橙色と紺色が混ざりあっていた。





「お誕生日おめでとう!!」


みんなが声を上げると、クラッカーの音が鳴り響く。

テーブルには、パパが奮発したケータリングの豪勢な食事やケーキが並ぶ。


「ありがとう!!」


ママは嬉しそうに笑顔になる。


「はい、ママ!!これ、レンと私から!!」


一緒に選んだプレゼントを、私の手からママに渡す。


ママは嬉しそうにそれを受けとる。


「ありがとう、二人とも!!」


ママが私たちの顔を交互に見て、歓喜の声を出す。


「まぁ、ほぼリンが選んだんだけど。」


レンがちょっと恥ずかしそうに、口元で笑う。


「レンもちゃんと選んでたじゃん!!」


照れ屋なレンの功績を、しっかりと私は告げた。


「2人で…買い物に行ったの?」


そのママの言葉に、空気が固まった。


「えっ…うん。」

「あっ、うん。そうよね!!
嬉しいわ!!ありがとう!!」


何事も無かったみたいに、平然を装う。

ママとパパの顔から一瞬笑顔が無くなったのを、私は見逃さなかった。


「そうだ、レン!お前彼女とか出来ないのか?」


パパが場を和ませようとしてるのが解る。

パパはだいたいレンにこれを聞く。

聞いてノーだと返ってくれば、苦笑いするのに。


「彼女…」


レンがボソッと声を出す。
その声がいつものトーンと、違う。

「うん。出来たよ。」


私は耳を疑った。
目を見開いて、レンの顔を見る。

レンは目を少し伏せていた


「ほ、本当か!?」


パパもママも目を丸くしている。


「こんな恥ずかしい嘘つかないよ。」


レンは片眉を下げて、恥ずかしそうに笑う。

その声にも表情にも、曇りがない。

「おい!母さん!
レンに彼女だってよ!!」

「やだぁーレンたら!
いつの間に出来たのよ!!」


パパとママは、今まで見たこともないくらいにはしゃいでるのが目に見えて解った。

私は何も言葉が出せなかった。


「先週…出来たばっかだけど。」



喜びを含んだ声。

歓喜に満ちた空気。


何これ…?

まるで私だけ残して世界が一変したみたいに、違和感だらけだった。

目の前にいるレンは、まるで私の知らない人みたいに映る。


頭がグルグルと回転して、上手くまとまらない。


私は思わず席を立ち上がると、その場を逃げ出した。





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