ツインソウル



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マリコがひとりだったら果てしなく長く感じた時間でも、
ハリーと一緒にいると不思議なことに時間が流れるスピードは早かった。
ふたりはロビーのベンチから移動して、 カフェへと入った。

テーブルの真んなかで手を絡めたまま、
注文したコーヒーとミルクティーはろくに飲まず、 時間を忘れて語り合った。
話題は尽きることなどなかった。
幸せすぎて怖いくらいで、 ずっとずっとこの瞬間がつづけばいいと感じていた。
ハリーも。 マリコも。




「え!? 嘘! もうこんな時間なの・・・・!?」




機械的なアナウンスが聞こえてきて、 マリコははっとして腕時計に目をやった。




「ごめん・・・・そろそろいかないと」

「・・・・そっか」




時間だけ早送りしたようにあっと言う間だ。




「じゃあ・・・・ここで」




出発ゲートエリアの前に立つとマリコはくるりとふり向き、
両手でしっかりと抱えていたヘドウィグが入っている鳥籠をそっとハリーに差しだした。
鳥籠を受け取り、 ハリーは名残惜しそうに頷く。




「ねえ、 “ハリー”。 休暇のあいだ、 手紙を書いてもいい?」

「・・・・もっ、 もちろん! 僕も書くよ! 毎日だって書くから!」




「ハリー」と。 マリコがそう呼んだのはこの瞬間が初めてだった。
さっきいたカフェで語り合っていたときは「ポッター」か「あんた」の、 ままで
一度もそうは呼んでくれなかったのに______。




「バーカ・・・・。 毎日は無理だってば。 日本とイギリスじゃ距離が離れすぎてるもん。
梟が疲れちゃうじゃん」

「あ、 そっか。 そうだよね・・・・」

「でも・・・・毎日は無理でも、 私もいっぱい書いて送るね」




マリコは突きだした小指を自らハリーの小指と絡め合わせた。
はい、 約束ね。 と、 笑って。

ああ、 どうしてこんなに可愛いのだろう。 愛しいのだろう。
ハリーはふわふわと雲の上に立っているような気分になった。
このままマリコを日本になんかいかせないで、 どこかへ連れ去りたくなってしまうくらいに。

もちろん、 そんな”どこか”と言える場所が”どこに”あるのかもわからないし、
現実はそうもいかないからぐっと堪えるのだ。




「気をつけてね。 休暇を楽しんで。 また新学期に会えるのを楽しみにしてるよ。」

「うん・・・・」




マリコはそれだけ言って背伸びをすると、 ハリーの肩に両手を置き
唇をハリーの頬に押し当てた。
ハリーの耳元でちゅっと小さく音がたつ。

ハリーは驚き、 締まりのない顔でキスされた頬に手を当てる。
マリコの柔らかい唇の感触がまだ残っていた。




「じゃあね。 いってきまーす!」




茶目っ気たっぷりに笑いながら、 マリコは出発ゲートエリアの向こう側へと進んでいった。

ハリーと別れ、 そのまままっすぐ出発ゲートに向かい、 搭乗の列に並ぶ。
チケット片手に自分のシートを見つけて荷物を降ろすと、
マリコはうっとりとしたため息と共にシートに深々と腰かけた。

世界が、
目に映るもの、 身のまわりのもの全てが輝いて見えた。
その全てを抱きしめたくなってしまうくらいに。
例えば、 今、 座っているシート。 あらかじめ用意されていたブランケット。 滑走路が見える四角い小さな窓。
シートポケットに入っている緊急時の避難に備えてのパンフレットや、 免税品のカタログでさえも______。
そんなものまでもが愛おしく感じてしまうくらいだった。

誰かを好きになると言うこと、 誰かと恋をすると言うことは
マグルだろうと魔法使いだろうと、 こんなにも幸せな気持ちになれるのだろうか。

マリコは自分の頬を両手で包みこんだ。
頬は風邪をひいて熱をだしたときのように火照っていた。
胸に手を当てれば鼓動は高鳴っている。

この気持ちは______どうしてこんな気持ちになってしまうのだろう。 わからない。

優しいこの甘さ。

マリコは角砂糖を思い浮かべた。
真っ白な角砂糖。
それらはピラミッド状に積み上がっている。
恋する気持ちは角砂糖のようだ。
真っ白で美しく、 純粋で、 優しい甘さ。
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