ツインソウル



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8 角砂糖タワー



ベンチに並んで座ったまま繋いだ手。
絡め合わせた指と指。



「バーカ・・・・」




苦笑を浮かべるハリーを見てマリコは笑う。

マリコがハリーに向けてよく言う「バカ」
言われたのはこれで何度めか思いだせないながらも、
その言葉は甘酸っぱく響いていた。




「仕方ないだろ。 だって・・・・とにかく慌ててたんだ」




マリコはおかしそうに、 くすくすと笑いつづける。




「思ってたより早い時間の電車に乗れたから、 かなり早くここに到着したの。
でもほら、 ここって店らしい店がないし手持ち無沙汰になるでしょ。
搭乗までまだまだたっぷり時間があるし、 チェックインしたあとに到着ロビーまでいって
ペーパーバックを選んでたの」




これ。 と、 マリコはショルダーバッグからペーパーバックを引っぱりだして
表紙をハリーに向かって掲げて見せた。

ハリーは、 あーっと声を上げて宙を仰いだ。




「そうだと知ってたら僕________」




そう言えばあのとき、 係員はなにか言っていた。
おそらく、 他の便もあると言うことを伝えようとしていたのだろう。
全く、 なんて早とちり。




「もおっ! びっくりしたよ・・・・」




マリコはペーパーバックをショルダーバッグに戻してハリーをじっと見つめた。




「今になって考えると僕・・・・めちゃくちゃかっこ悪くて恥ずかしいことした?」

「うううん。 そんなことないよ」




予想外の言葉にハリーは驚きの声を上げて、 はにかむマリコをじっと見つめ返す。
「本当、 こっちまで恥ずかしくなるじゃん!」
とかなんとか言われてもおかしくはないのに________。




「そりゃあ・・・・びっくりしたよ。 すっごく!
出発ロビーに戻ってきたら急に叫び声が聞こえてさ、
ああ、 ポッターの声だって思って、 どこにいるのか探したら・・・・
出発ゲートエリアに向かって叫んでるんだもん。
驚くのも無理ないでしょ。 でも・・・・すごく嬉しかった
ねえ・・・・ポッター?」

「・・・・なんだい?」

「あんなひどいこと言って、 嘘ついてごめんね。
それなのに・・・・どうして私なんかを好きでいてくれたの?」




ハリーはマリコの肩を抱いた。




「そりゃあさ・・・・すごくショックだったさ。
第一、 キミは口が悪いし気が強いし・・・・」




マリコはぐいっと顔を持ち上げて、 ぎろりとハリーを睨みつける。




「ポッター! あんた私に喧嘩売ってんの!?」




そう言う意味で言ったんじゃなくてさ。 と、 ハリーはハンドアップ。
それでもまだ、 マリコはハリーを睨みつけていた。




「・・・・・・だけど、 僕にはわかるんだ。 わかったんだ・・・・。
あんなこと言うには訳があったんじゃないかって。
僕が知る本当のハナムラは・・・・誰よりも心の優しい女の子だ」




マリコの不機嫌顔はどこかに消える。
俯き、 再びハリーを見上げたその表情にはうっとりと、 心から幸せそうな笑顔が浮かんでいた。
マリコはまた言う。 「バカ」

そう言って、 ハリーの肩に凭れた。
ハリーはマリコの肩を抱いたまま、 額に唇を押し当てる。




「マリコ・・・・?」




突然そう呼ばれて、 マリコは驚きを隠せなかった。
目を丸くして、 そんな自分が映っている緑色の瞳を覗きこむ。

笑って、 怒って、 また笑って、 今度は驚く。
マリコの表情はころころと変わる。
そんなマリコが、 ハリーはたまらなく愛しく感じていた。




「だめ・・・・かな? せめて、 ふたりだけのときはこうやって名前で呼び合いたい」

「・・・・いいよ」




さらりと名前を呼んだけれど、 実際のところ
ハリーは口から心臓が飛びだしてしまいそうなくらい緊張していた。

いいよ。

照れ臭そうにそう返されて、 ガッツポーズしたくなった拳が痺れる。




「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」




そんな照れ臭さの延長上でそっと、 小さく、 ぽっかりと沈黙ができてしまい、 
ハリーは咳払いした。




「マルフォイのこと・・・・だけどさ、」




そして、 沈黙を静かに破る。
ハリーは壊れものを扱うかのように慎重に語りだした。
マリコは目だけで頷く。




「僕たちのこと。 しばらくは、 秘密にしておこう・・・・」




ハリーの提案にマリコは宙を見据えて、 自分に言い聞かせるかのようにささやく。




「うん・・・・そう・・・・だね。 そうした方がよさそうかも」

「いつかは、 みんなにちゃんと言えるようになろう」

「そうだね・・・・いつかきっとね」




暗くなりがちな雰囲気を、 ふたりはほほ笑み合って吹き飛ばした。

ハリーはロンとハーマイオニーに。
マリコはパンジーとドラコに。
言えるだろうか。
とても祝福なんてされないかもしれない。
それでも秘密のままにせず、 いつかはきっと________・・・・
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