ツインソウル



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7 プライドと勇気



マリコは寮監のスネイプから受け取ったスリザリンの三年生全員分の
採点済みのレポートの束を抱えながら寮へと向かった。




「ミス・ ハナムラ、 寮に帰る所ならちょうど良い。
我輩の代わりにこれを持って行って皆に返却して欲しい」




くたびれかけた幾枚もの羊皮紙を抱えながら、 それらをゆさゆさと揺らしながらマリコは歩く。
歩きながら、 自分の提出したレポートを抜きだした。
どきどきしながら、 そっと。
赤いインクでスネイプがシャープにつけた×印。
羊皮紙の一番上に書かれた”A”。
______採点に○ではなく×をつけることと、 採点が数字ではなくアルファベットであることは
日本の学校とは少し違うのだ。______
その結果を見てマリコは少なからず胸を撫で下ろした。
A+ではなくても”A”をもらえただけで充分だと。
______当然のごとく、 ドラコはA+だ。______

よいしょと片手でレポートの束を抱えながら、 
もう片方の手に持った自分のレポートをまじまじと見つめる。
見つめながらも、 心はそのレポートを透かした遥か彼方______全くべつの場所にあった。

あのとき________・・・・・・・・

あのとき、 自分は止めに入るべきだったのだろうかと。

殴り合いの喧嘩騒ぎを起こしていたドラコとハリーを。

あのとき、 マリコはただ顔を真っ青にして立っていた。
いったいなにがふたりをああも激しく衝突させてしまったのか。
あのふたりの仲が険悪だったことは今にはじまったことじゃないけれど、
あんな風に衝突し合うなんてこと、 今まではなかったはずだ。




「・・・・・・・・」




考えこみ、 マリコは唇を噛んだ。
なにかを深く考えるとき、 唇を強く噛んでしまうのはマリコ自身も自覚していない癖。

止めに入ったとしても________、

どちらかと言えば、
殴られっぱなしでろくに殴り返せていないドラコを止めるべきだったのだろうか。
それとも、
馬乗りになってドラコを殴っていたハリーを止めるべきだったのだろうか。
それとも、
やめてと叫んで両者を止めるべきだったのか________・・・・。

マリコははっとして、 ひとり力なく首をふる。
過ぎてしまったことをずっとあれこれ考えてしまう癖はマリコ自身、
薄々は自覚している。

どちらにせよ、 自分は止められなかった。
騒ぎのなか、 マクゴナガルの一喝で縮こまり、 
そのあとを渋々ついて歩くふたりの背中を見ていたことしかできなかった。

暴力・喧嘩・罵倒それらはマリコに激しい恐怖や絶望を根づかせる要素だった。
それは思いだしたくもない、 だけど悲しいことに鮮明に残ってしまっている過去のせいだ。

ふう・・・・と、 こぼれ落ちたため息と共に指先から力が抜けてしまった。




「・・・・あ・・・・!」




静かに吹く風が、 マリコのAのレポートを宙に舞わせた。
しっかりとレポートの束を抱えながら、 片手を上げてそれを追いかける。
レポートはひらひらとマリコの頭上よりも高く、 
ぴんと伸ばしたマリコの手よりも高く、 飛んでゆく。
追いついても届かない。

だけど、 風がほんの少し、 弱まった。
音もなく地面に落下する。
強いて言うならば、 地面と紙がこすれてさらっともざらっとも言える音がたつ。

やっと手が届いてひと安心。

かと思いきや、 マリコがレポートを掴むより先にそれはぐしゃっと音をたてた。
突然伸びてきた誰かのつま先______ローファーだ。______に踏みつけられて。

マリコは手を伸ばしてしゃがんだ体勢のまま、 顔だけを上げた。
肩の下でざっくりと切り揃えられたたっぷりとした赤毛が揺れている。
顔にはそばかすが浮かんでいて、 鳶色の瞳がマリコを見下ろしている。

その赤毛、 ネクタイの色からして
マリコはすぐに彼女が誰であるかがわかった。
ハリーの親友であるロンの妹の、 ジニーだ。




「足、 退けてくれない? 踏んでるんだけど」



そう言ってマリコは顎をしゃくる。
バリアを張るかのように、 無表情の仮面を被るように
マリコの表情と声は鋭く冷やかになる。
いつもそうなのだ。
スリザリン以外の生徒の前では身構えてしまうせいだ。

ジニーは無表情のままローファーのつま先を持ち上げる。
そこからすっとマリコは羊皮紙を引っぱった。
既に提出済みでスネイプの採点後でよかったと思う。
踏みつけられたおかげでマリコの書いたレポートはぐしゃぐしゃになってしまっていたし、
亀裂が入って破れかけていた。
ぱんぱんとそのレポートを手ではたきながら、 マリコはジニーを睨みつけた。
相手がグリフィンドール生だからとかロンの妹でと言う理由だけではない。
“こう言うことをしておいて謝罪のひとこともない人間は”
マグルであっても純血魔法使いであっても、 マリコは許せないたちなのだ。

ジニーはなにも言わない。
黙ったまま、 マリコを睨み返している。




「なに?」




そう聞いても返事は返ってこなかった。
ふんと鼻を鳴らすようにして去っていった。
ジニーがマリコのレポートを踏みつけたのは故意的になのか事故的にだったのかはわからない。
だけど、 
少なからずジニーは”スリザリン生である”マリコを良くは思っていないことだけは確かだ。
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