ツインソウル



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一瞬の無駄な抵抗にすぎなかった。
たちまちマリコの体のなか______つま先から頭のてっぺんまで、 熱くて甘い毒がまわる。
くらくらと目まいが起き、 ハリーの首に腕を絡めてしがみつく以外なすすべがない。

ハリーにとってもそうであるように、 マリコにとっても初めてだった。
こんなキスをしてしまうのは________。

熱くなった唇と唇がそっとぶつかり合う、 舌が絡み合う艶めかしい音が
ふたりのあいだのわずかな空間から静かに響く。




「・・・・大丈夫だよ。 これで完全に回復だ」




ハリーはいたずらを仕掛けた子どものように無邪気に笑った。
「もう・・・・」と、 吐息まじりにマリコは頬を紅らめて笑う。
立ち上がり、 ハリーの頭にそっと、 こつんと拳をぶつける。




「それだけの元気があれば心配することもないね」




そう言い残してマリコは去っていった。

マリコが去ってゆき、 姿が見えなくなってしまっても
ハリーはベッドの上に座ったまま、 しばらくはマリコがいたベッドサイド、
歩き去っていった通路、 出入口の空間をぼんやりと見つめているのだった。

“あんなキス”をしてしまったからだろうか。
やけにマリコが色っぽく見えた。

潤んだ瞳、 少しだけ乱れたさらさらの髪、 紅くなった頬と唇、
鼻を埋めたくなるような肌や髪から漂う甘い香り______。

______あのまま・・・・

あのまま、 あんな色っぽい顔したまま寮に帰ってしまったら
マルフォイだって黙っちゃいないだろうと感じる。

ため息と共に再びベッドに仰向けになり、 枕の上でクロスした腕で頭を支えた。
長い長い歴史が刻まれているであろう天井をじっと睨み上げ、
ハリーは決心した。




______肝心なことを言葉にして伝えてない




愛してる。

それはなんだか照れ臭い響きだ。
だから、 せめて________

キミが好きだ。

ハリーはごろんと横に体をひねる。
今、 すぐにでもこのベッドから抜けだしてマリコを追いかけて、
そう叫びたくて、 全身がうずうずするのだった。








廊下で、 マリコは抱えていた本で顔を隠すようにして俯いた。
そして歩調を速める。

きっと他人から見れば不気味そのものだったはず。
顔がにやけてしまっていたのだ。 きっと。

廊下ですれ違った生徒がマリコを見て驚いた顔をしていたのだから。




「・・・・・・・・」




寮の目の前へと辿り着くと、 マリコは俯きがちだった顔を持ち上げて
ドアをじっと睨んだ。

______ちょっと遅くなっちゃったかな・・・・

顔にしわを寄せながら、 根拠もなく大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせて
ドアに手を伸ばす。

でてきたときと同じようにすればいいのだ。
そうすればドラコには怪しまれないはず。

すーっと大きく息を吸って吐く。

そして、 ドアを勢いよく開いた。




「たっだいまぁー! ごめんねぇー遅くなっちゃって・・・・。
本、 見つけてきたよー」

「遅い」




ドアを開いた、 その目の前にドラコが仏頂面して仁王立ちをしていた。
マリコは思わず後ずさりしてしまい、 背中に壁がぶつかる。




「びっ・・・・くりしたあー・・・・。
もう! やめてよー・・・・脅かさないで。
あーあ・・・・心臓止まるかと思った」




はい。 この本ねと抱えていた本をドラコの手に押しつけ、
マリコは自分の手を胸にあてた。
どこどこと心臓の音がうるさい。
それは、 ドラコが目の前に立っていたせいでの驚きでもあるけれど
嘘をついて今さっきまでハリーといた後ろめたさもある。

ドラコは黙ったまま本を一瞥して、 すぐに視線をマリコへと戻した。




「で?」




ドラコはじっとマリコを睨みつける。




「・・・・え?」




ドラコの気迫に圧倒されてしまい、 再びマリコの背中に壁がぶつかる。




「いったい、 今まで”どこで””何をして”寄り道してたんだ?」

「より・・・・みち?」

「そうだ!」




ドラコは手にしていた本を乱暴にテーブルに放り投げると、
そのまま乱暴な手つきでマリコの肩をつかんだ。

真正面から刺さるような薄青い瞳________・・・・・・

振り解こうにもできない力だ。




「寄り道なんてしてないもん! 図書室に長居しちゃっただけだってば!」

「本当にそうか・・・・?」




つかまれた肩にぎりぎりと指が食いこんで痛かった。
顔をしかめるも、 ここで怯んでしまってはますます怪しまれてしまう。
強気でいなくちゃと、 マリコはドラコを睨み上げた。




「本当だってば! だからもう手、 離してよ! 痛いじゃない」




ドラコはにやりと笑った。
そして、 その手を離す。
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