ツインソウル



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5 芽生えて散る恋




あんな目に遭ってしまったと言うのに、 意識を失ってからは幸せな夢を見た。
そっと優しい瞳で、 愛なんてものを感じてしまうような瞳で、 自分を見つめてくれるマリコが目の前にいる。
こんなにも近くで________・・・・・・

幸福で溶けてしまいそうだった。




「・・・・あ・・・・! よかったあー・・・・目、 覚めたんだね」




霧がかかったようにぼやけていたハリーの視界が、 ゆっくりと鮮明になってくる。
まだ自分が夢を見ているのかどうか確かめるべく、
ハリーは鈍く重たく感じる体を起こして清潔なリネンのシーツに手をすべらせた。
眼鏡・・・・、 眼鏡はどこだ・・・・?




「こぉーらっ! 起きちゃだめでしょ。 まだ寝・て・ろっ!」




伸びてきたマリコの両手はハリーの両肩を押さえつけ、
ハリーの上半身をぐいぐいとベッドのなかに押し戻す。
さらっと揺れた黒髪がハリーの顔に触れてくすぐったい。
それに、 マリコの髪や肌から漂う石鹸のようなシャンプーのような淡い香り______。

これは、 夢じゃない。




「どうしてキミがここに・・・・?」




とりあえずは逆らわず、 もぞもぞとベッドに仰向けになり
顔だけ横に向けてマリコを見つめた。
彼のトレードマークでもある丸眼鏡がないせいで視界はまだ少しぼやけていたけれど、
確かにこれは夢ではなかった。




「私がいちゃだめだった?」




そう言い放ってマリコは唇を引き結び、 じっとベッドに横たわるハリーを見下ろした。




「いや・・・・むしろその逆」




ハリーは力なく笑う。
____その笑みに力がなかったのは、 ディメンターに襲われて箒から落下したせいもある。____
ハリーがそう言うと、 マリコの表情はほんの少しだけ和らいだ。




「まだ・・・・もう少しいれる?」




人間、 弱っているときの方が素直になれるのかもしれないなとハリーは思う。
普段だったら変な意地を張ってしまってこんなことは言えないし、
できないだろう。
そろそろと毛布からだした手をマリコに向かってゆっくりと伸ばすと、
マリコはぎこちなくもハリーの手を両手で優しく包みこむ。
細い指先のひんやりとした感触を自分の手に感じた。
手と手を重ね、 握り、 指先を絡め合うと、 
互いの手のぬくもりが重なって温かなぬくもりへと変化する。

幸せ。

ふたりは同時にそう感じていた。

少なくとも、 いつもよりは素直になれたことに。
手と手を重ねたぬくもりに。
こうしてふたりでいて、 ほほ笑み合って見つめ合えることに。

ふたりのあいだに、 ほとんど言葉はなかった。
時おり、 くすっと笑い合ったりマリコがハリーの手の甲を撫でたりするだけで______。

そしてマリコの背後に、 ハーマイオニーが立っていることにハリーが先に気づいた。
ミント色のクロススクリーンから、 そっと顔をのぞかせたハーマイオニーに。

ハリーの視線を辿るようにマリコは首だけをひねった。
ハーマイオニーは、 おずおずとふたりを交互に見つめ、 そして
ふたりのあいだの空間に視線を止めて言う。




「そろそろ・・・・みんながくるわ」




ハーマイオニーの言葉はどちらかと言うと“ふたりに”ではなく、
マリコに向けられたもののようだ。
マリコは一瞬だけ俯き、 「そう・・・・わかった」

それだけ言ってハーマイオニーは去っていった。
彼女の言う”みんな”の元へ向かったのだろう。
それはハーマイオニーなりの気遣いだ。 きっと。




「じゃ、 私はそろそろ寮に帰るね」




不自然に明るい笑みを浮かべて、 マリコは手を解いた。
「お大事に。 早く回復するといいね」と言い残してミント色のクロススクリーンの向こう側へと消える。




「待って!」




ハリーはがばっと起き上がり、 背中を向けているマリコの手を掴んだ。
マリコの目が驚きで丸くなる。
ハリーはそのままマリコを自分の元へと引き寄せた。
突然のことで驚き、 バランスを崩したマリコの上半身はベッドの上______
つまりは、 ベッドの上に座るハリーの膝の上へと崩れ落ちるのだった。




「何よ・・・・もう!」




起き上がろうとしたマリコに、 そうはさせまいと押さえつける。
ハリーは貪るようにマリコの唇に吸いついた。
この前よりもうんと荒々しく、 熱烈なキスだ。
そしてさらに、 その驚きでほんの少し開いてしまったマリコの唇を舌で割って
そのまま侵入する。

突然、 こんなキスをしてしまうのは本能かもしれないと
ハリーはマリコの唇を貪りながら思う。

突然すぎる、 おまけに熱烈で強引すぎるキスにマリコは驚き、
全身を高揚させてハリーの腕や肩をどんどんと叩いた。
だけどハリーはそのキスを止めようとはしない。
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