ツインソウル



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4 ふたり 



薄っぺらい寝袋はお世辞にも寝心地がいいとは言えない。

ハリーは、 これで何度目かもわからない寝返りを打つ。
右に体をひねり、 今度は左。
でも、 やっぱり仰向けに・・・・
どう転がっても、 どんな体勢でも、 
背中に感じる、 地面のごつごつと硬く、 冷たい感触はベッドとは程遠い。

もっとも、 ハリーがなかなか眠れない理由はそれだけではないのだけれど______。

いったい、 今は何時になるのだろう。
とっくに真夜中くらいだろうか。
さっきまでは、 すぐそばをダンブルドアやスネイプが歩いていたのは覚えている。
______ふたりの会話までも鮮明に。 背中を向けて寝たふりをしていたのだ。______

大広間での雑魚寝とも言えるこの状況のなか、 ハリーはぎゅっと目を閉じた。
そうやって懸命に目を閉じて眠ろうとしても、 思いだしてしまうのだ。
マリコとふたりで過ごした時間の楽しさと甘酸っぱさ。
ホグズミードから帰ってきた仲間たちを迎えたときのにぎやかさ。
久々に終始笑っていられたものの、 状況は急変。

荒らされた寮の部屋。 そして、 怯えていたレディ。

そんなことがあって、 おまけに、 こんな場所で眠れるわけがない。

それでも、 この大広間のあちこちから寝息やいびきが遠く小さく響き渡っている。
ハリーは再び寝返りを打った。 背中が痛い。
隣に眠るロンは仰向けで、 口を大きく開いたまま大爆睡。
どんな状況であっても、 こうして眠れるのは彼の長所でもあるかもしれないと
ハリーはひとり小さく苦笑いした。




「・・・・・・・・」




今夜は眠ることを諦めようと、 今度は仰向けになり天井をじっと見つめた。
普段は蝋燭が浮かぶ天井に、 今は暗闇と星空だけが広がっている。
じっと、 夜明けを待つしかないと感じるこの瞬間が永遠のように果てしなかった。
それでも眠れないのだから、 こうする他ない。

ため息ひとつと共に、 後ろ手で組んだ両手を後頭部に押し当てる。

せめて、 誰か起きてくれればいいのに______。

自分のように眠れない誰かが必ずひとりはいるはずだ。
その誰かひとり。 誰でもいいから、 夜明けを待つまで話し相手になって欲しかった。

マルフォイ以外なら誰でもいいからと______。

ハリーは視線だけで見渡せる範囲内で、 薄暗い大広間を見渡す。




______誰もいない・・・・か




見る限り、 自分以外は全員ぐっすり眠っているようにしか見えない。
あの憎きスリザリンの生徒たちが横たわるスペースまでも。
______もちろん言うまでもなく、 ここで眠る前、 
大広間での雑魚寝に一番うるさく文句を垂れていたのはスリザリンの生徒たちだった。
なかでもドラコ。 「ウィーズリーの家ならともかく、 この僕が雑魚寝なんて・・・・!」______

アイツはむしろ、 永遠に眠ってろとまでハリーは思った。

ずらりと並ぶスリザリンの生徒たちの寝袋を遠目に見つめていた。
そんなとき______、

そのなかから小さなシルエットがひとつ、 ゆっくりと起き上がった。
ハリーは驚き、 眉間にしわを寄せて目を細めた。
“誰か”が起き上がり、 膝を抱えて座っている。




______誰だ・・・・!?




視力の悪さと、 この暗さでわからない。
極力音を響かせないように努めながら、 眼鏡を引っつかんでかけた。




「・・・・・・・・」




眼鏡をかけても、 距離が離れすぎているせいでそのシルエットはぼやけている。
ハリーは、 もしかしてのかすかな期待をこめて上半身を起こした。
そしてから再び、 眉間にしわを寄せて目を細めた。




______ハナムラ・・・・!




そう。 それは、 間違いなくマリコのシルエットだった。
ふたりの距離が離れすぎているせいで
マリコが今、 どんな顔をしてるかまではよくわからないものの
ハリーの目に映るマリコのシルエットは、 膝を抱えて座ったまま
ぼんやりと遠くを見つめているようだった。

マリコもまた、 ハリーと同じような理由で眠るに眠れなかったのだ。
背中にごつごつと硬く冷たく感じる感触に耐えられなくなり、
体を起こしたものの、 夜明けまでの長さに途方に暮れていたのだった。

だからこそ、 
そんなマリコとハリーの視線が遠くからでも重なり合うことに、 
そう時間はかからなかった。




「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」




薄暗い大広間でお互いの存在に気づきはじめた瞬間、
ふたりは同時に驚いた。
そして、 同時に声を押し殺して笑った。
もちろん、 距離が離れてるせいでお互いの表情までは確認できない。
それでもまた、 ふたりは同時に意思の疎通を考えた。
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