ツインソウル



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3 空を飛ぼう!



がちがちと音がたってもおかしくないくらいだった。
ハリーはマリコに向かってひねっていた上半身をもう一度ひねり直し、
上半身だけじゃなく、 全身をひねった。
くるりとふり向き、 数メートル先にいるマリコと向かい合って立つ。
この距離だと視力が悪いせいでマリコが今、 どんな顔をしているのかがわからない。
ハリーは、 なぜだかそれがとてももどかしく感じるのだ。

マリコはカツカツと、 切羽詰まったかのように足音を大きくたてながら
ハリーに歩み寄った。
そんなマリコがハリーに歩み寄り、 距離が縮まったところで
ハリーはマリコがどんな顔(表情)でいるのかを確認できた。
ぎゅっと唇を引き結び、 じっとハリーだけを睨みつける鋭い視線______

このあいだのことで、 まだ何か言い足りなかったのだろう。
ハリーは必然的に身構えた。
何を言われるのか、 自分は何て言い返してやるべきかを必死に予想しながら。




「痛っ!」




確かにマリコは、 じっとハリーを睨んでいた。
だけど何も言うこともせず、 ハリーの手首をぎゅっとつかんだ。
ハリーは、 とっさに手を引っこめようとしたものの
マリコの手はそうはさせまいと力をこめてハリーの手を押さえつけている。




「何するんだよ!? いきなり・・・・痛いじゃないか!」




抗議の声を上げてもマリコは、 やっぱり何も言わない。
ハリーの手首を握りつかんだまま、 本を小脇に抱え直し
厚手のパーカーの袖をめくり上げた。
マリコの指先は細く、 ひんやりと冷たい。
パーカーの袖をめくり上げられたと同時にひんやりとした空気に肌を撫でられ、
その肌にマリコのひんやりと冷たい細い指が触れるものだから、
ハリーは自分が鳥肌をたててしまったのを感じた。
ぞくぞくとした。
ぞくぞくと感じ、 胸の突起が厚手のパーカーのなかでぴんと立ち
さらにその奥底______心臓を鷲づかみにされたように。
そして、 ずん・・・と、 下半身の中心が疼き、 ジーパンが窮屈になるのも感じる。
それでも不思議なことに、 体がこれだけ反応していても
性的なものを思い浮かべたり、 感じたりはしないのだ。

ただ感じるものは、 ここにマリコがいると言うこと。
こんなにも近い距離にいると言うこと。
ハリーの全身の神経と言う全ての神経が、 その事実を必死に
だけど、 ゆっくりと確認していた。




「・・・・やっぱり」




マリコは、 ため息まじりに。 そして、 どこかがっかりしたように
そんな声を上げた。




「え・・・・? 何が・・・・?」

「もしかしてって思ってたけど・・・・やっぱり!
痣、 できてる!」

「・・・・痣・・・・?」

「自分でわからないの!? ほら、 ここっ! 痣できてるじゃない!」




マリコが指先で押さえる場所をハリーはじっと見つめた。
確かに、 腕の内側のその部分には少し大きめの痣ができていた。
赤と青が入り混じって染まるように。




「あ、 ああ・・・・本当だ。 でも大したことないよ。
キミに言われるまで気づかなかったな」




ハリーにとってこの程度の痣なんて、 ささくれができるように日常的なことだ。
確かにマリコの指先がそこを押さえつければ少しだけ痛い・・・・
かもしれないけれど、 いちいち気にかけるものでもなかった。




「バッカじゃないの!?」

「バカって・・・・だから何なんだよ・・・・!? さっきから・・・・」

「その痣、 私が箒から落ちたのを助けたときにできたんでしょ?」

「さあ・・・・でもまあ、 そうかもしれないけど」




確かに、 あのとき落下するマリコを抱き止めた瞬間は
激しい衝撃と共に両腕に痛みが走るのを感じた。
だけど、 自分の両腕の痛みなんか気にする余裕なんかあのときはなかったわけだし______、




「本当・・・バカ。 きて!」




______バカバカ言うな!

そう心のなかで悪態をつきながらも、 
ハリーは黙ってマリコに腕を引っぱられるかたちで廊下を歩いていく。




「僕をどこに連れていく気?」

「決まってるでしょ! 医務室っ!」
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