ツインソウル



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2 反発



きっと私、 死ぬんだ。
そうじゃなくても首の骨を折るくらいの大怪我をするはず・・・・。
でも、 この恐怖から早く解放されたい。

早く! 早く!

死ななければ、 大怪我の痛みは我慢するから早く________

だけど、 マリコは助かった。
二本のたくましい腕がマリコを抱き止めてくれた。
死ぬどころか、 どこも怪我をしていない。
なんて運のいいことだろう。




「あっ、 あなたは・・・・・・、」




徐々に我に返ると気づいた。
助けてくれた相手は赤と金色のネクタイを締めていると言うことに。
黒とも茶色とも言えるくしゃくしゃの髪。 額の傷。
丸眼鏡のレンズ越しの緑色の瞳。
間違いない。




「ハリー・ ポッター!?」

「マリコ・ ハナムラ!?」




ふたりは同時に声を発し、 同時にお互いの名前を口にした。
マリコは自分の手をハリーの首元に絡めていることに気づき、
慌ててその手を引っこめ、 ハリーの腕のなかで縮こまり
ハリーに触れていた手を胸に置く。 その手をもう片方の手と重ねて。

短い沈黙のあと
ハリーは、 のどを鳴らすように咳払いして




「怪我・・・・なくてよかったよ」

「・・・・そ、そう・・・・だね。 もう・・・・下ろしてくれて大丈夫だから」




激しく押し寄せる驚きのせいで、 マリコは 
自分でもびっくりするくらい不機嫌な声がでてしまったことに驚いた。
助けてくれたことに感謝でいっぱいのはずなのに。

ハリーがゆっくりとマリコの体を地面へと下ろす。
マリコの足はふらつきながらも、 しっかりと地面を踏む。
こうしてまた両足で草の上を踏みしめることが奇跡のようにも感じた。
そうして今度はその場に立ったまま、 辺りを見渡した。




「・・・・・・どうしたの?」




背を向けて立ち、 きょろきょろとしているマリコの背中に向かってハリーは言う。




「杖・・・・落としちゃったの。 多分、 この辺りに落ちたはずだったと思うんだけど・・・・」




ハリーの声を背中で受け止めたまま、 マリコは言う。
そして数歩進み、 背が高く伸びた草をかき分けはじめた。
背後に立っているであろうハリーの足音が近づくのを感じながら、
高鳴る鼓動をじっと押し殺すようにしてマリコは草をかき分けつづけた。
がさがさと両手で草をかき分けると、 ぷんと青々とした匂いが漂う。

ハリーは二メートルくらい離れてマリコの隣にしゃがみ、
同じように草をかき分けはじめた。
その二メートルの距離でふたりの視線が重なり合う。




「杖、 僕も探すよ」




ぎこちなく目礼すると、 マリコは視線を手元に戻した。

ありがとう。

そのたったひとことが出てこない。
本当は言いたいのに。 言うべきなのに。
いくら相手がグリフィンドール生であっても、 ハリーがいてくれなきゃ今頃
こんな風に無事でいられることはなかったのに・・・・・・。

がさがさ、 ざわざわ、 しゃかしゃかと
草をかき分けるふたりがたてる音、 ときおり聞こえる小鳥のさえずり。
それがなかったら周囲の空気も時間も、 ぴたりと止まっているかのように
ただひたすら沈黙が流れつづけていた。




「あの・・・・さ、」




ハリーは沈黙に耐えかね、 もごもごと切りだす。
視線は地面のまま______マリコは、 草をかき分けつづけている手を一瞬、 
ぴたりと止める。 杖は、 なかなか見つからない。




「どうして箒から落ちたの・・・・?」

「・・・・・・・・」




ハリーのその言葉にマリコは何て返そうか迷ったものの、
箒に乗れないから。 とは素直に言えるわけがなく、
その場をごまかすように再び手を黙々と動かす。

「あー・・・・」と、 「ええと・・・・」と、 言いかけ、 ハリーは口ごもる。
そして、 こうつけ足す。




「もしかして・・・・箒、 乗れないの?」




ハリーは自分でそう言いいながらも、 しまったと思った。
この言葉だけ、 やけに声のトーンが高くなってしまったし
これじゃあまるで、 馬鹿にしてるように響いてしまっただろうと。

マリコの手は再び、 ぴたりと止まった。
しゃがんだまま、 草をかき分けつづけていた手を引っこめ、 その手を膝の上に乗せて、
顔を上げて、 ゆっくりと、 二メートルの間隔を隔てて隣にいるハリーを見つめた。
見つめた。 と、 言うよりは睨みつける。 ように。
そして、 目の前にいるハリーを通して
一年生のときの初めての飛行訓練を嫌でも思いだすのだ。
一年生の飛行訓練のとき
初めてハリーと目が合ってしまったこと。
箒を動かすことすらできなかった自分に対し、 いとも簡単に箒をつかんだハリーを。
ドラコのように箒に乗ったことはないのに、 すぐに乗り方をマスターしていたハリーを。
そうしてハリーを見つめながら、 (睨みながら、)
記憶のなかの自分たちを見つめてみた。 (睨みつけてみた。)
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