ツインソウル
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9 哀れなマグルたち
マリコが心ここに有らず状態のままスーパーマーケットへと向かうと
ルリコは既にショッピングカートにあれこれと詰めこんでいた。
「あら、 ずいぶん遅かったじゃないの」
「うん・・・・レターセット、 買おうかどうしようか少し迷っちゃって・・・・。
いいのがなかったから結局買うの止めた」
「あら、 そう」と、 ルリコはマリコの嘘には特に気にも留めていない。
「あ、 そうそう! グレープフルーツジュース、 そこの棚から一本取ってくれない?」
「・・・・グレープフルーツジュース・・・・・? どのやつ?」
「100パーセントのものだったらなんでもいいわ」
見慣れたパッケージのパックのものを抜き取り、 カートに入れる。
それからも、 帰り道も、 帰宅してからも、 バスタブに浸かっているときも、
ベッドに入るまで、 マリコは心ここに有らず状態のままだった。
______お昼ごはんが遅かったから夜は軽いものにしようとルリコは言っていたけれど、
マリコはお腹が空かないから今晩はいらないと断り、 お風呂上りには早々に部屋に籠っていた。______
ベッドに仰向けに横たわり、 細長いため息をついて、 タオルケットを顔半分まで引き上げる。
汽車と飛行機の長旅だけが原因ではない疲労感があった。
目を閉じればすぐに眠りに落ちてしまった。
そんな眠りにすら、 心地良いものは与えられなかった______。
夢のなか。
マリコはホグワーツの生徒ではなくなっていた。
だから当然、 オリバンダー杖店で買った杖を持ってはいなかったし、 魔法使いでもなかった。
大好きなひともいない________・・・・・・
マリコは小学生だった。 そして、 中学生になっていた。
小学校でも、 中学校でも、 同じような目に遭っていた。
小学校では男子たちに暴言を浴びせられたり、 叩かれたり。
女子たちはそんな光景を見てくすくす笑ったり、 ひそひそ言い合っていたり。
「やめて!」
マリコはそう叫んでいた。 何度も何度も。
泣き叫び、 声が掠れつつあった。
だけど、 そんなマグルたちの姿や声は追いかけてくる。 どこまでも。
逃げても逃げても、 どこまでもどこまでも______・・・・。
渦を巻くような空間で逃げまわり、 走り疲れた瞬間
マリコは中学生になっていた。
紺色のプリーツスカートに紺色のベスト。 丸い衿の白いブラウス姿だった。
ああ、 助かった・・・・・・。
そう感じた。
私は中学生になった。 だからもう大丈夫。
もう、 あんな風にいじめに遭って苦しむことなんかない______
そんな風に安堵したのも束の間。
まるで、 息の根すら止められてしまいそうなほどの止め一撃のようだ。
あのマグルたちもマリコと同じように中学生になっていて、
男女全員が一斉にマリコを囲んでいた。
暴言・ 暴力・ 冷やかな笑い________・・・・・・・・
やめて! やめてっ!
お願いだからもうやめて!
誰か助けて________!
マリコは体を丸めて蹲った。
頭を抱えて泣き叫ぶ。
ああ、 もう、 だめかもしれない________。
その瞬間、
“誰か”がマリコを抱き上げた。
ふわふわと宙を浮くような感覚のなかに温もりを感じる。
『もう大丈夫だよ。 安心して』
________誰・・・・?
『今までたくさん傷ついてきたんだね。
僕も傷ついてきた。
僕たち、 そうして今まで生きてきたみたいだな・・・・。
でも、 もう大丈夫。
こうして僕たち、 一緒にいればもう大丈夫だから______』
『ね、 ねえ・・・・あなたは誰なの!?』
マリコは声の主の正体を確かめるべく顔を上げた。
だけど、 あまりの眩しさで目を開けることすらやっとだった。
瞼の上に手を翳して目を細める。
徐々に視界がはっきりとしてきた。
気づくと、 見えてきたのは自分の部屋の天井だった。
窓からは夏の眩しい日差しが差しこむ。
瞼を擦りながら起き上がり、 額に貼りついた髪を掻き上げる。
______夢・・・・?
徐々に目が覚めてくると、 鼓動が一気に突き上げてきた。
ああ、 私を助けてくれたのはきっと、 ハリーだ。
あの声、 あの温もり、 あの優しさ______・・・・
マリコは思いだす。
箒から落ちたとき、 ハリーが助けてくれたことを。
あの瞬間の驚きと気まずさを。
______夢のなかでも助けてくれるなんて・・・・
なんとも言えない笑みを浮かべながら、 ベッドの上で膝を抱える。
やっぱりあいつ、 本当にヒーロー(英雄)ってものかもしれない。