夢小説 ATTACK ON TITAN


□夢を語ろう
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2話-変化

昔から賢くて優秀で優しいマルコに、 エミリは追いつきたくて必死だった。
ずっとそばにいて離れたくないと。

<いつか僕たちは憲兵になるんだ。 それで、 結婚しよう! エミリは僕の花嫁になるんだ>

幼すぎた日の不完全な約束は、 エミリの夢でありつづけるのだった。
そんなマルコと毎日一緒にいるのにふとした瞬間、 変化に気づく。
小さい頃は背丈が同じくらいだったのに、 マルコは上へ上へと引っ張られるように大きくなっているし、 声が低くなった。
突き出ているのど仏や、 太くて堅そうな首や肩や腕、 血管が浮き出る手の甲と長い指先……
その全てがエミリにはないもので、 だからこそ見ているだけでドキドキするのだった。
ドキドキして、 かっこいいなと感じながらも、 ますますマルコに追いつくことが困難になるのだ。
男になりたいとかマルコのような逞しい体つきになりたいと言うわけではない。 
少しずつ大人へと近づこうとする変化が、 エミリを複雑な気持ちにさせた。 
現にエミリの体も昔とは違う。
ぺたんこだった胸が膨らんできたし、 この歳になれば『アレ』が来る頃なのだ。

「血が出てるぞ」

まるで、 計ったかのようなタイミング。 マルコには一番気づかれたくなかったのに。

「やだ! 見ないで……っ!」

恥ずかしくて死んでしまいたかった。 咄嗟に掴んだベッドカバーをスカートの上に巻いた。
階段を駆け下りればキッチンにいた母が何事かと目を丸くしている。

「血が……出たの」

涙を浮かべたくぐもり声で言うと、 母はエミリの手を引いて奥のバスルームへと入った。

「マルコは?」

母はドアを閉めるとしゃがんでエミリを見上げる。

「部屋に……いる」

しゃくり上げながら返ってきた言葉。

「大丈夫! ほらほら泣かないで。 最初はびっくりして戸惑うけど、 きっとすぐに慣れるから大丈夫。 お母さんもそうだったもの……」

いつか自分の身にも起こるだろうとはわかっていたのだ。
だけど、 こんな風に突然に、 しかもマルコと一緒のときになんて______。

「大人になるための準備が始まったのよ。 いつか結婚するときのためのね」

生理用品の使い方を教えた母は最後にこう言い残してバスルームを出て行った。

______いつか結婚……

その時のその相手こそマルコであって欲しいと願っている。
最近はそんなことを語ることが減りつつあるけれど……。

「突然こんなことになっちゃってごめんね」

「いや、 全然」

母とマルコの声と足音が聞こえて来た。
今はマルコに合わせる顔がないエミリはその場に座りこんで膝を抱える。
翌日、 すぐに謝りに行ったらマルコは笑って許してくれた。

「いいよ、 別に。 気にしてないから」

マルコは優しいからきっと許してくれると思っていた。 けれど、 やっぱり少し不安だった。
だからこそ、 心からほっとした。
ああ、 これでいつも通りの私たちだ______。
この時、 既に何かが少しずつ変化し始めていたことには気づかずに……。

「隣、 いいかな?」

昼休み。 マテューがエミリに声をかけて来た。
いいかな? と聞いておきながら返事を待たずにエミリの隣に座る。

「そこはマルコの席だから他へ行って」

目すら合わさずマテューに言い放っても、 彼は動こうとしない。
それどころか足を組んで座り直し、 じっとエミリの横顔を見つめる。

「マルコなら戻って来ないよ」

エミリがはっと顔を上げてマテューを見つめた。
その目と、 マテューの見え透いた作り笑いがぶつかり合う。

「色々と手伝いや頼まれ事があるみたいでさ」

マテューがそう付け加える。 エミリは返事もせずにそっぽ向いた。
この男は嫌いだ。 女の子たちに人気だからか、 自惚れ屋。
そんな奴とは一分一秒だって一緒にいたくなかった。
エミリは立ち上がり、 外へと出て行った。
マテューはその後ろ姿をにやりと見つめる。 こんな反応を返されるのは想定内だ。
マルコを味方につければ上手く行くと確信していた。

「遅いよおーどこ行ってたの? 昼休み終わっちゃったじゃん!」

マルコが戻って来たのは午後の授業が始まる直前だった。

「ちょっとな。 色々と頼まれてたんだ」

マルコはばつが悪そうに笑い、 教科書を机に並べた。
エミリは、 ふーんとだけ声にして頬杖をつくと窓の外へ視線を流す。
このときマルコがマテューと目を合わせていたことにエミリは気づいていない。
放課後も一人にされたときは、 さすがに少し剥れた。

「待ってなくていいよ。 遅くなるから先に帰ってて」
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