夢小説 ATTACK ON TITAN


□夢を語ろう
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1話-ウォール・ローゼ南区ジナエ町

ぱたぱたと走る小さな足音と笑い声が二人分、 学校へ向かおうと家を出た青年の耳に響いて来た。

「おはようドミニク」

黒髪を揺らして走る少年が声をかけると、 青年______ドミニクは目を細めて「やあ、 おはよう」

「ドミニクおはよー!」

少年の後を追うよう走る少女もドミニクに向かって手を振った。
ドミニクも笑顔で手を振り返す。

「マルコ、 エミリ、 ちゃんと前見ないと転ぶぞ」

ドミニクが二人に向かって声を張り上げると、 少女______エミリは「平気だもーん」と言った直後に派手に転んだ。

<エミリ、 大丈夫か!?>

<ん……平気だもん>

少年______マルコはすぐに駆け寄り、 エミリの手を取る。
ドミニクはやれやれと思いながらも、 もう一度二人に手を振った。
二人も小さな手を大きく振り、 手を繋いで駆けてゆく。
赤ん坊の頃からのマルコとエミリを知っているからこそ、 相変わらず仲が良いなと思う微笑ましい光景だ。

「ドミニク、 学校から帰って来たら遊んでくれるかなあ?」

マルコと手を繋いで歩きながら、 宙を見つめてエミリがぽつりと。

「勉強で忙しいみたいだからわからないよ」

そっかあ……とだけ言うエミリの横顔は少しさびし気だ。
マルコは何か気の利いた一言を探す。 けれど、 そう簡単には思い浮かばなかった。
こうして並んで歩く二人は同じ歳だからこそ背丈も同じくらい。 いつでもどこでも一緒。 
まるで双子の兄妹のようだ。
そんな二人に刃が向けられたのは突然の出来事。
町を歩いていたら、 中年の男が逃げるように走っていた。 その先にたまたまマルコとエミリがいた。
たったそれだけの偶然。

「動くなよガキ共!」

中年の男は二人を捕まえるとナイフを向けた。
幼い二人が恐怖に悲鳴を上げる、 ことはなかった。
あまりにも突然で、 ただただ驚いて、 目を丸くしたまま動けなかったのだ。
日の光に反射するナイフの先端が眩しく、 奇異なものにさえ感じる。

「銃を下ろせ! このガキ共がどうなってもいいのか!?」

中年の男は更にナイフを二人に近づけて見せた。
二人の兵士が中年の男に銃を向けている。 どうやらこの男は窃盗犯らしい。 トランクを必死に守っている。
子供二人の人質______従うしかなく、 兵士たちは銃を下ろす。

「そうだ……それでいい」

ほくそ笑む窃盗犯はこのまま金品の入ったトランクを抱えて逃げるつもりだったのだろう。
だけど、 そうは行かなかった。
窃盗犯とマルコとエミリの真上から、 もう一人の兵士が立体機動で飛び降りて来たのだ。
一瞬の風のように素早かった。
兵士は窃盗団の手からナイフを弾き飛ばすと、 マルコとエミリを救出した。

「君達、 怪我はないか?」

マルコとエミリはゆっくりと大きく瞬きをする。
こんなときでもマルコはしっかり「はい」とこたえた。 言葉が出てこないエミリは首がはち切れんばかりに頷く。
窃盗犯はすぐに取り押さえられ、 連行された。
彼らの背にはユニコーンの紋章______

「……憲兵団だ!」

マルコが興奮気味に言い放つ。

「けんぺい……だん?」

エミリが首を傾げると、 そうさと返って来た。

「前にドミニクから聞いたことがあるんだ。 兵士は訓練を受けた後、 駐屯兵団か調査兵団か憲兵団に入るんだって!」

エミリは去って行く憲兵団を見つめる。 幼さ故の無知だった。
兵士はみんな兵士なのだと思っていたし、 各兵団に分かれているなんて知りもしなかったのだ。
それでも、 マルコがこうして目を輝かせて憲兵を見つめているように、 エミリの目にも彼らは輝かしい英雄に見えたのだった。

「僕もいつか憲兵になりたいな」

「……私も。 なりたい」

意外な言葉にマルコは、 ぷっと笑い出す。

「なによぉ!?」

「だってエミリ、 大きくなったら花嫁さんになりたいって言ってたじゃないか」

エミリは頬を膨らませた。 確かに言っていた。
町で行われた結婚式を初めて見たとき、 花嫁の美しさにうっとりとしたのだ。

「花嫁さんにもなりたいけど憲兵にもなりたいの!」

マルコは笑いながら、 じゃあこうしようと言う。

「いつか僕たちは憲兵になるんだ。 それで、 結婚しよう! エミリは僕の花嫁になるんだ」

「うん!」

小さな胸の中いっぱいに夢と希望が広がり出した。
マルコと憲兵になって、 大好きなマルコの花嫁さんになる。
なんて素晴らしい未来だろう______!
そのときは、 幼い子供の一瞬の憧れのようなものだったはず……。
けれどやがて、 二人が兄のように慕っていたドミニクが学校を辞めて訓練兵になり、 卒業して憲兵になったとき、 二人の憲兵団への憧れはますます強くなって行ったのだった。
王の元で民を統制し秩序を守る、 ユニコーンの紋章の憲兵団。
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