夢小説 ATTACK ON TITAN
□シュヴァルツ
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「ごめんごめん、 今行くから」
エミリがエレンに駆け寄る。
エレンは「あ」と声を上げて俺を見た。
「何だよ」
このクソったれがとでも言ってやりたい気分だ。
せっかくいい所だったのに。 チックショー……ッ!
「ジャンもいたのか、 馬と同化しててわかんなかったぜ」
蟀谷の血管が激しく痙攣して、 ぶち切れそうだった。
「うっせぇ! このクソったれがぁぁぁぁぁっ!」
◆
人間もそうらしいが、 出産はだいたい夜になるらしい。
数日後の夜。 シュヴァルツは産気づいた。
一日の任務を終えてひと息つける瞬間でさえシュヴァルツの様子を見に行くエミリが、 血相を変えて走って来た。
「いよいよ産まれる……のか!?」
エミリはこみ上げる震えを懸命に押さえようとしながら激しく頷く。
「どっ、 どうしよう私……赤ちゃんが産まれるとなったらそばについてるつもりだったのに、 いざとなったら自分がどうしていいのかわからなくて……
シュヴァルツ、 すごく苦しそうにしてて……私、 私……このまま何もしてあげられなくて、
シュヴァルツと赤ちゃんが______……」
落ち着け!とエミリの両肩を力強く掴んだ。
ようやく目の焦点が合う。
「俺も出来る限り手伝う。 他に、 この事で頼れるのはいないのか……!?」
ハンジさん。
震える唇の隙間から、 そう聞こえた。
「ハンジさんなら……何度か立ち会ったことあるって聞いてたから……」
「……よし、 わかった。 だったら今すぐ呼んで来い。 俺はシュヴァルツの所に行くから」
エミリは今にも泣き出してしまいそうな顔だった。
「大丈夫だ。 信じろ……! おまえの馬だろ? きっと赤ん坊も元気に産まれて来る」
掴んだままの肩を揺する。
俺だって内心焦りまくっている。 が、 冷静になるしかない。
来るべきものは来るのだ。
俺たちはそれぞれの場所へと急ぐ。
馬小屋で、 シュヴァルツは宛てもなくうろつくように歩きまわっていた。
とにかく落ち着きがなかった。
うろつき、 横になるのかと思えば立ち上がってうろつく。 そんな繰り返しだ。
エミリがあんなに取り乱すのも無理がない。 ただ、 見ていることしかできないのだ。
「ついに産気づいたんだって!?」
ジャケットを脱ぎながらバタバタとやって来たのはハンジさんだった。
シャツの袖を捲くり、 シュヴァルツをじっと見つめる。
はいと俺がこたえた瞬間、 バケツの水をぶちまけたような音が響いた。
「……破水したか。 このままスムーズに出て来てくれればいいんだけど」
エミリの前ではカッコつけたくせに、 足が竦む。
「ジャン、 尻尾を押さえててやって」
早く!とハンジさんの声が張り上がり、 慌てて振り動く尻尾を掴んだ。
「ハンジさん! タオル持って来ました! これで足りますか……?」
「それだけあれば十分だよ」
息を切らしてエミリも駆けこんで来た。
脚が出て来たと、 ハンジさんが覗きこむ。 本当だ。
細長い脚が飛び出している。
「ジャン、 そのまま尻尾を押さえてて。 エミリ、 一緒にシュヴァルツの呼吸に合わせてゆっくり引っ張るぞ」
「はい……!」
エミリもジャケットを脱ぎ捨てるとシャツの袖を捲くり上げ、 頼りないほど小さな腕で仔馬の脚を掴んだ。
ハンジさんの指示とシュヴァルツの呼吸に合わせてゆっくりと引っ張ると、 細長い脚がどんどん出て来る。
シュヴァルツは呻き、 苦しそうだ。
がんばって、 シュヴァルツ。 あともう少し……もう少しで赤ちゃんに会えるよ。
呻き声のあいだにエミリの優しい声がぽつりぽつりと降る。
前脚につづき頭が出て来るとすぐに、 仔馬は外へと飛び出た。
再び、 バケツの水をぶちまけたような音が響く。
「よしっ!」
ハンジさんが拳を宙に突き上げると、 俺とエミリは目を合わせて震えるほどの喜びを分かち合った。
産まれたての仔馬は可愛いと言うよりは正直、 奇異なものに感じた。
てかてかと光る大きな鳥みたいだ。
______命だ……。
兵士になったことで、 俺たちは奪われる命をいくつも見て来た。
だが、 こうして命の誕生を目にしたのは初めてだった……。
エミリは、 泣いていた。
俺が声を立てずに笑って見せると、 顔を背けて瞼を押さえる。
ったく……。 こんなときまで意地っ張りだな……と思いながらも、 内心、 俺もやばかった。
瞼の裏が熱い。