夢小説 ATTACK ON TITAN


□愛憎プフェーアト
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3話-理由はない

ジャンは運の悪さを呪いたくなった。 自分の拳を不平がましく見つめて。
コニ―は自分の手を『パー』に広げたまま「よっしゃー!」

______出したのも『パー』か……てめぇの頭も『パー』だっつうの!

じゃんけんは強い方だったのだ。
このまま全勝をつづければ面倒なことを避けられると思っていたのに……。

「今回はジャン、 おまえの負けだ。 ってことで朝の水汲み頼んだぞ!
おーいマルコ! 明日の朝はジャンが水汲みしてくれるってよ」

え、 本当?とマルコは振り向いた。

「うっせえ!」

早朝にベッドから出ることは、 ある意味重労働に近い。
体(脳みそごと)はまだ眠ることを求めているのに、 それを懸命に振り払って起き上がらなければならない。
口を半開きにしたまま大の字で眠っているコニ―を見ると、 その顔面を踏んづけてやりたくなった。
寝癖はそのまま。 あくびを噛み殺しながら着替えて外へ出る。
冬ではなくても早朝は空気がひんやりとしていて少し寒い。 おまけに眠気もついてまわる。
肩を縮めながら井戸まで歩いた。
こんな時間に外に出るどころか起きている哀れな奴は自分だけだと思いながら。
あたたかいベッドが恋しい……。
井戸に誰かがいると気づいた瞬間、 一度は足を止めた。
ばしゃばしゃと水音を立たせている。 ここから見るとまるで子供の水遊びのようだ。
相手はジャンに背中を向けてしゃがんでいるせいか気づいていない。
そうだ、 あの人物に水汲みを押しつけてしまおう。
そうすれば僅かな時間でもベッドに潜りこめる。 二度寝だ二度寝!
ずる賢い思いつきなんて、 一瞬で打ち砕かれた。

______エミリ……!?

後ろ姿でもすぐにわかった。
エミリがしゃがみこんだまま、 頼りない肩を震わせている。
顔を洗っているのかと思ったけれど、 それにしてはなんだか変だ……。

______まさかコイツ……、

まさか、 まさかな……井戸へと______エミリのそばへと近づく。
そのまま背を向けて去り、 見なかったことにしたかった。
ああ、 どうしてこう、 こんな風にタイミングの悪い鉢合わせになってしまうんだろう……。
一歩ずつ近づくとエミリの横顔がちらちらと見えてしまった。
予想した通り、 エミリは泣いていたのだ。
泣いているエミリの背中を見つめていると、 七歳のときの自分を思い出し、 めまいを覚えてしまう。
近所の年上のガキ大将と喧嘩をして負けたのだ。 複数でかかって来たことが理不尽で悔しかった。
一対一だったら、 全力でかかれば、 勝てた可能性もあったのだ。
年上のガキ大将グループが複数でかかって来た時点でジャンの負けは決定したのだった。
服は泥だらけ。 泣きべそをかいて帰った。

<泣いてちゃわかんないだろ、 ジャンボ。 ほら、 何があったの? 言ってみな>

母親はそう言って、 ハンカチで泥と涙でぐしゃぐしゃになったジャンの顔を拭いてくれた。
だけどジャンは嗚咽が止まらなくて声は声にならない。
ただただ悔しかった。 

______……って、 何でこんなときに母ちゃんが出て来るんだよ!

“母ちゃん”はさておき、 今、 目の前で泣きじゃくっているエミリ。
それはジャンにとって七歳のときの自分と重なって見えたのだ。
涙の理由はわからない。
だけど、 人は悔しさで心が支配されたとき、 あんな風に泣くのかもしれないとジャンは感じた。
そんなことを冷静に考えていられたのは、 ほんの一瞬だった。
誰かがいる______!?
気づいて顔を上げたエミリの涙を間近で見てしまうと、 本当は心のどこかでは信じられなかったのだと気づく。

______エミリが泣くとか……マジかよ……

売り言葉に買い言葉でどんなにひどいことを言ってしまっても、
今までのどんなに過酷な訓練にも、 キースに絞られても、 涙ぐむことすらしなかったのだ。
そんなエミリが、 今、 目の前で泣いている。
いったい、 何がそこまでエミリを泣かせてしまったのだろう……。
エミリの涙の理由は______……!?
二人は憎まれ口の一つ叩くこともできなかった。
エミリはしゃがんだままジャンを見上げているし、 ジャンはそんなエミリを見下ろしたまま立ちすくんでいる。

「お、 おい……!」

弱っている人間が憎き相手であったとしても、 手を差し伸べるべきかと迷っているうちに、 エミリは走り去ってしまった。
泣き顔を隠すようにして。
兵站行進の成果か、 エミリがジャンの目の前から走り去るのは風のように早かった。
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