夢小説 ATTACK ON TITAN


□愛憎プフェーアト
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2話-衝突

「楽しみー!」

「そうだ、 昼飯はどこで食おうか?」

二人の周りだけピンク色の靄がふわふわと囲っているようだ。
初々しいカップル、 フランツとハンナは今度の休暇の過ごし方を嬉しそうに語っている。
それを目の前で繰り広げられると、 正直他でやってくれと思う。
胸焼けに似たものを感じたジャンは舌打ちする。
立ち上がり、 さっさと食器を下げると食堂を出た。
休暇まであと少し。 誰もがどこか浮かれ気味だった。
肩を怒らせて歩くジャン自身も休暇を心待ちにしている一人だ。
日頃の訓練で溜まった疲れを解消するべく昼寝をして過ごすか、 街に出て買い食いでもするか……。

<ねえねえ、 エレンも誘ってみようよ!>

<きてくれるかなぁ?>

<大丈夫だって! おいしいもの食べようって言ってさあー……あ、 でもミカサが……>

数人の女子が声を潜めるようにささやき合っているけれど、 きゃっきゃとした笑い声と共に会話の内容は漏れている。
ジャンは顔をしかめて二度めの舌打ちをした。

______どいつもこいつもエレンエレンうっせぇんだっつうの!

エレンは元々目立つ存在ではあったけれど、 あの立体機動訓練の後はヒートアップした。
ベルトの金具が破損していたにも関わらず、 エレンは姿勢を保つことができたのだ。
そんなエレンはたちまち注目の的になった。 ああして、 一部の女子たちにモテるほど。
(実際はミカサが目を光らせてエレンをガードしていること。 エレン自身がそう言う類のものに鈍感すぎることで特に進展はないけれど)
ジャンは歩きながら拳を握り締めた。

______ミカサを誘ってみるぞ……

少しの時間でいい。 一度、 二人で過ごしてみたいのだ。
他愛ない話をしてみたい。 一緒に買い食いなんかしてみたい。
毎日共に訓練に励む仲間なのに、 知らないことが多すぎる……。
だからこそ、 少しの時間を一緒に過ごしてミカサのことをもっと知りたいと思うのだ。

______よし……!

ミカサを誘う! いざ決心すると心臓が胸を叩きつけはじめた。

「ジャン! こんな所にいたんだ……! 探したよ。 向こうでコニーが______」

食堂から出てきたマルコが後を追ってやって来た。 けれど______、

「悪ぃ。 ちょっと俺、 これから行くとこあるんだ」

そっかわかったよ、 とだけ言ってマルコは去って行った。
確か今日、 ミカサは倉庫の掃除当番だったはず……。
エミリと言う憎きお邪魔虫も一緒なのが気に食わないけれど、 こっちが行けばエミリの方からジャンを避けてくれるのはわかっていた。
(エレンが最初の立体機動訓練で気絶と同じくらい、 エミリがジャンに平手打ちもインパクトは大きかった。
それをジャン自身が根に持たないわけがない)
心臓の音が自分でもはっきり聞こえる。 地面を踏みつけて歩く自分の足音と呼吸は、 どこか遠い。
一歩進むごとに倉庫に______ミカサの元に近づいている。 少し歩けば倉庫はすぐに見えてきた。

『なあミカサ、 今度の休暇。 俺と一緒に街で昼飯でも食わないか?』

ジャンは胸の内で復唱する。
……いや、 “一緒に”よりは”二人で”の方がいい。
じゃないと、 オッケーしてくれたとしても”余計なおまけ”がついてくる。 それだけは避けたい。

『なあミカサ、 今度の休暇。 俺と二人で街で昼飯でも食わないか?』

よし。 これだ。 これで行こう。 いや、 待てよ……。
すんなりオッケーしてくれるとは限らない。 それにこれだとナンパ臭ぇ台詞か……!?
そうこうしているうちに倉庫の目の前まで着いてしまった。
半分だけ開いたドアの向こう側から、 足音と物音が聞こえる。

______よ、 よし……行くぞ!

うまい台詞なんか思いつかない。 こうなれば直球勝負だ。
ジャンは勢いよくドアを全開にした。

「な、 なあミカサ______」

飛びこむようにして入ったドアの先、 そこにミカサはいなかった。
機材が入った箱を抱えたエミリが眉を寄せている。

「なっ、 ななな何だよ!?」

「それはこっちの台詞なんだけど」

エミリは抱えていた箱を積み上げた。 それを両手でぐいぐいと隅に押しやる。

「あれ、 ジャン……? どうしたの?」

天井まで届きそうな背の高い、 埃っぽい棚。 その陰から金色の髪を揺らしてアルミンが顔をのぞかせた。
アルミンはジャンとエミリのあいだに流れる不穏な空気をすぐに感じ取った。

「ミカサならエレンと二人で水汲みに行った」

ぽかんとしたままのジャンに、 エミリが冷たく言い放つ。
“二人で”を強調する言い方がジャンを苛立たせた。
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