夢小説 ATTACK ON TITAN


□愛憎プフェーアト
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1話-砂風

12歳。 実現するべく夢へ近づいていると、 ジャンは確信していた。
ベッドに寝そべりながら描くものは、 その夢のひとつ______理想の彼女。
黒鉛を握る手に力がこもる。
髪は長めだ。 そう、 こんな感じの……色は濃くて、 さらさらで______……
照れ臭そうに頬を赤らめながら笑う。 そう! こんな感じだ!
これこそ、 ジャンの理想の彼女像______それを崩すように部屋のドアが勢い激しく開いた。

「何度言ったらわかるんだい!? お昼だよ!」

母親が苛立たしげにフライパンを手にしている。 焼きたてのオムレツを乗せたまま。
ジャンは驚愕と同時に布団を被った。

「ババア、 ノックしろよ! なんでそんなもん持って来んだよ!?」

ふつふつと湧き上がる怒り。

「いくら呼んでも来ないからオムオムが呼びに来たんだよ!」

母親はフライパンのなかのオムレツを揺らす。

「いいから出てけ! このクソババア!」

描き上げたばかりの絵を握り締め、 ジャンはベッドから飛び降りた。
母親を部屋の外へと押しやると、 怒り任せにドアを閉める。
ドアの向こう側から聞こえる抗議の声も、 ジャンの怒りを爆発させる要素となった。
絵は、 ぐしゃぐしゃになってしまっていた。 歪んだ”理想の彼女”の顔……。

「クソったれがああああああ!」

それを破り捨て、 舞い散る紙片を踏みつけるように窓の桟を掴んだ。

______手に入れてやる……! 憲兵になって……内地での安全で快適な暮らしを、 
手に入れてやる!

数ヶ月後、 ジャンは家を出た。
見送る両親に背を向け、 振り返ることもせず、 必要最低限の荷物だけを持って。
訓練兵になって憲兵団を目指すのだ。 全ては内地での安全で快適な暮らしを手に入れるために。
そして……理想の彼女も。
847年。 この年の志願者は多く、 施設内から溢れ出してしまいそうなほど大勢が押し寄せていた。

「名簿に記入を終えた志願者は移動だ!」

受付には数人の教官らしき人物がいるが、 人が多すぎて列はなかなか動かない。
むしろ、 どれがその列なのかもわからない。
まるで何かの祭りにでも来たみたいだ。
ジャンは顔をしかめながらも、 雑踏に飛びこむ。
吹き起こる風は乾き切った地面から砂埃を舞い上がらせた。
砂埃から避けるように顔を向けた視界の先、 雑踏のなか、 ジャンを見つめる人物がいた。
それともジャンが見つめているのか……。
どちらが先に見つめたのかはわからない。
視線は、 重なり合う。

______やっべぇ……! 超可愛い……かも

こんなにも離れた場所だとぼやけていた。 おまけに遮るものが多すぎる。
近寄って声をかけてみたいと思った。 人混みを掻き分けて進む。
ほんの少し進んだところで再び風が吹き起こった。
舞い上がって来た砂埃がジャンの目を掠る。
瞼を閉じた一瞬、 見つめ合った人物は視界から消えていた。
見つめ合ったのも、 消えたのも、 一瞬の出来事だった。
今、 ジャンの視界に広がるのは、 風が巻き起こした砂埃と人混み。 それらを取り囲む木塀だけだった。

______どこ行ったんだ……!?

辺りを見渡しても、 それらしき人物は見当たらない。
まるで幻のようだった。
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