夢小説 ATTACK ON TITAN


□永遠になる
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「本日、 諸君らは訓練兵を卒業する……その中で最も訓練成績が良かった上位10名を発表する。
呼ばれた者は前へ______」

夜の闇を照らす炬火が揺れる中、 響く教官の声。
僕は胸を張って大きく息を吸った。

「首席ミカサ・ アッカ―マン、 2番ライナー・ ブラウン、 3番ベルトルト・ フーバー、
4番アニ・ レオンハート、 5番エレン・ イェーガー、 6番ジャン・ キルシュタイン______」
六人が並ぶ背中を目にすると、 どきどきした。
いや、 ぞくぞくが正しいだろうか。
心臓は乱暴に胸を叩きつけ、 背筋は目に見えない生き物が這っているような感覚だ。

「7番マルコ・ ボット」

自分の名前を呼ばれた瞬間、 突き上げるような喜びが胸を貫いた。
ジャンの隣に立つ。
鳥肌が立つほど誇らしい気持ちだった。
これで僕は憲兵団になれる……!
8番コニ―・ スプリンガー、 9番サシャ・ ブラウス、 10番クリスタ・ レンズと
次々名前が呼ばれる中で、 背中にエミリ・ チャーチの視線を感じたのは気のせいではなかったかもしれない。

エミリ・ チャーチ。
僕が最初で最後の恋をした人______。

倒れた彼女を抱き上げた瞬間は、 軽すぎて驚いてしまうくらいだった。
同じ訓練兵だから当たり前だが、 こんなに小さな体で血反吐を吐くような訓練に今まで耐えて来れたことが不思議だ。
僕はベッドに横たわるエミリを見つめながら、 過去最も辛かった訓練を思い出す。
(どの訓練も生易しい物ではないが)
視界は吹雪で一面真っ白、 凍りつく寒さで痛む頬、 寒さで失われる指先の感覚(むしろ、 自分の手足が存在してるのかすらわからなくなった)、 雪山での訓練。
たった一本の命綱を頼りに空に届きそうなほど高い崖を登る。
故意に命綱を切られ、 谷底へと落とされる立体機動装置の訓練。
訓練で死んだ仲間もいる。
 
______” 「私は……とにかくこのまま脱落しないで訓練兵を卒団することを目指してる」


出会った時から気づいていた。
世の中の全てを見尽くしたように冷め切った顔をしていた事を。
それでいて、 ふとした瞬間に澄んだ瞳で遠くを見つめている。
まるで雲の隙間から差しこむ光の道筋を目指すように……。
その横顔を目にした僕はもう、 とっくに心を奪われていたのだ。
閉じた瞼と重なるまつ毛が揺れ、 エミリは目を覚ました。
濃褐色の目が驚きで丸くなると同時に、 すぐさま起き上がろうとする。

「だめだよ、 まだ横になってないと」

僕の存在に気づいたその瞳は、 ますます丸くなった。
貧血だって、 と伝えると、 エミリは眉を寄せる。 不服そうに。

「貧血……?」

僕は、 ああと頷く。

「かなり無理してたんじゃないか?
とりあえず今日は一日安静にしてた方がいいって」

上着、 ここにかけてあるから。 僕は練習に戻るね。 と言い残し、 救護室を出ようとした瞬間
「マルコ……!」と呼び止められた。
振り向けば、 エミリがベッドから弱々しく手を伸ばしている。
すぐに駆け寄ってその手を握り、 指を絡めたくてたまらない。
が、 衝動をぐっと堪える。

「迷惑なもんか……! ゆっくり休んで元気になれよ」

エミリの回復を願う気持ちで救護室を出たが、 胸が疼くように痛み続ける。
何故、 必死になるんだ……!?
澄んだ瞳で遠くを見つめる理由。 訓練兵になって目指すべきもの。
僕は、 気づいてしまっていた。 この目で見たのだ。
市街地での模擬戦テストの日、 人類最強の兵士と言われているあの人は突然現れた。
それはまるで、 本や芝居の中だけにしか存在しないと思っていた恋人同士の再会のようだ。
エミリは瞳を揺らして拳を胸に当て、 あの人はエミリだけをまっすぐに見つめていた。
僕の初恋は決して叶わないと悟った瞬間______。

「エミリ……?」

長い一日の訓練を終えた夕方、 救護室に立ち寄ると、 エミリは眠っていた。
昼間よりも顔色が良くなっていることにほっとする。
ベッドサイドには空になった食器が置かれている。 と言うことは、 きちんと食事が摂れたのだろう。
エミリはぐっすり眠っていてしばらく起きそうもない。
そのまま食器を下げて出て行く。 つもり、 だった……。
手が、 勝手に、 求めるようにエミリに触れる。
僕の手は柔らかな髪や頬を滑るように撫で、 唇で指先が止まる。

______よせ……! 

僕の唇は、 勝手に、 求めるようにエミリの唇と重なる。
思考だけが別の生き物のように感じた。
エミリの眠りを利用して、 触れてキスするなんて……。
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