夢小説 ATTACK ON TITAN


□最終話
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なんて穏やかな朝だろう。
木に寄りかかって立ちながら、 ぼんやりと空を見上げた。 晴れ渡った眩しい空。
私は枝に止まっていた一羽の鳥を見つけた。
すると、 どこからか飛んできたもう一羽も、 その鳥の隣に止まった。
二羽は枝の上でさえずり合うと、 寄り添うよに羽ばたいていった。
壁の向こう側に飛んでゆき、 日の光に吸いこまれるように見えなくなってしまった。
なんだか前にもこんな風に空と羽ばたく鳥を見上げていたことがあったっけ、 と思いだす。

「なに一人でにやにやしてんだよ気色悪ぃ」

草の上で小枝が踏みしめられる音と共に、 聞こえた声。
ジャンだ。
私は何も言わず、 眉を持ち上げて見せる。

「考え事か?」

「まあ、 そんな感じ」

私が立っている木の下へとジャンが近づいてくると、
背が高いせいで垂れ下がった枝と木の葉は彼の顔を叩く。
顔をしかめたジャンを静かに笑い飛ばすと、 少しむくれた。

「ジャンは? 何してたの? こんな朝早くから」

「馬の餌やりだ」

「……ジャンもいっぱいにんじん食べた?」

私は寄りかかっていた上半身を起こした。
ジャンはまた垂れ下がった枝と木の葉に顔を叩かれている。

「てめ……っ! それいちいちうるせぇよ」

並んで歩きだすと、 ジャンがやけに真面目な顔と声音で「なあ、 おまえさ」と。

「何よ……」

「大丈夫か……?」

ジャンが私の進行方向を塞ぐように正面に立ち、 じっと見下ろす。
突然のひとことに目を丸くするしかできなかった。

「……え?」

「エミリ、 無理して強がらなくていいんだぞ?」

突然吹いてきた風が、 ジャンの短い髪を揺らす。
小さな風は素早く通り抜け、 草や木の葉をそっと揺らして消えた。

「な、 どうして私が______、」

ジャンのその真剣な視線に応えようとすると、 肩越しに
私たちを呼ぶアルミンの姿が見えた。 その隣にはミカサもいる。
私はアルミンとミカサに向かって手を上げると、 視線をジャンに戻した。
ふたりの存在にまだ気づいていないジャンは、 じっと私を見下ろしたままだ。

「……心配してくれてありがと。 無理なんてしてないよ。
私は大丈夫だから……こうして仲間に恵まれてるしね」
______失ってしまった仲間もいる______

ふとした瞬間に思う。 ジャンは変わった。
こんな優しさをふとした瞬間に見せてくれるし、 勇気と強さを持っている。
今では104期調査兵の指揮役のような存在だ。
全く、 ミカサもエレンばかりではなくジャンのことも少しは見てあげればいいのに、 なんて
お節介を思う。
怪訝な顔をするジャンの背中をぐいぐいと押した。

「アルミンたちが向こうで呼んでるよ、 行こ」

ポーチに立つアルミンとミカサの元へといく。
今朝のミカサは何やら訳知り顔だし、 アルミンは全身を強張らせていた。
ジャンと私は一瞬だけ目を合わせた。
アルミンは、 壁外調査のときから少し様子がおかしい。
それは、 何かを知っているからだと思う。
ミカサは既にアルミンから”何か”を知らされたのだろう。

「おいおい、 何だよ? 朝っぱらから怖い顔しやがって」

ジャンの声とは対照的に、 アルミンは私とジャンの顔を交互に見比べて、
やっぱり強張った声のまま。

「話があるんだ。 僕は……ある作戦を考えた。
団長に言う前に、 君達にも知って欲しいんだ……」

ジャンと私はまた、 一瞬だけ目を合わせた。
アルミンはずっと思っていたことを、 ついに私たちに話てくれた。
このポーチを______私たち四人を、 リヴァイ兵士長が窓から見下ろしている。
私がその窓を見上げたときに、 その姿はもう、 なかったけれど______。
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