夢小説 ATTACK ON TITAN


□8話
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「お兄ちゃん」 「兄貴」
もし……兄が生きていたとしたら、
もし、 兄と一緒にいれたとしたら、 私はこんな風に呼ぶのだろう。
きっと______。
もし……。
それはもう、 今となっては存在しない願いと未来だ。
第57回壁外調査。 
鐘の音が鳴り響くなか、 手綱を握る手が震える。
開門後、 一斉に馬を走らせる。
旧市街地に入ってすぐ、 左前方から10メートル級が襲ってきた。
崖の先端でつま先立ちでもするかのような恐怖、 息が詰まる。

「怯むな! 援護班に任せて前進しろ! 進めぇ!
進めええぇぇ!」

ありとあらゆる音や声のなか、 上官の勇ましい叫びが聞こえた。
地面がひび割れ、 陥没してしまいそうな勢いで隊列が旧市街地を抜けてゆく。
援護班の支援の元、 旧市街地を抜けると、 そこは壁の外______
空が、 果てしない……。
太陽の眩しさに思わず目を細めた。
______外の世界へ一歩、 踏みだしたんだ……
視界にいっぱい、 入りきらないほどの広大な空の青さと大地の緑。
地平線の彼方を目指して飛んでゆく鳥。
______綺麗……
壁の外へとでた瞬間、 兄たちもこんな気持ちになったのだろうか。

「おいエミリ! ぼさっとしてんじゃねぇぞ! もう長距離索敵陣形展開だ!」

「う、 うん……!」

ジャンが怒鳴り声と共に私を追い越してゆく。
隊列は前後左右へと大きく広がった。
陣形展開後は、 果てしない空間を一人で______と、 二頭で______走っているみたいだ。
解放感と恐怖が行ったり来たりをくり返しながら。
どこまで走っても広い空。
索敵班のいる方向から赤の信煙弾が上がった。
赤、 赤、 赤……
私も慣れない手つきで赤の信煙弾を発射させた。
次々と上がる赤色。
そして、 遥か彼方の前方方向______団長がいる場所だ______から緑の信煙弾が打ち上がった。
進路が変わる。
緑、 緑、 緑……
同じように緑の信煙弾を発射。 そしてまた次々と上がる緑色。
順調に進んでいると思っていた。
______女型の巨人が出現するまでは……______
黒い煙弾が上がったときは、 目を疑いたくすらなった。
右翼索敵班の方から上がる数本の黒。
使いたくはない色。
力をこめて発射させた。
それからすぐのことだ。 誰も乗っていない一頭の馬が走ってくる。
巨人に襲われたのか、 ひどく怯え、 興奮しているようだ。
この馬には見覚えがあった。
______ジャンの馬だ……!
ジャンが乗っているはずなのに姿がない。
走りながら辺りを見渡す。 だけどやっぱりジャンはいない。
______どこ……!?

「……待って! こっちにおいで!」

まずはこの馬の手綱を取らなければ。
手を伸ばすも、 それを拒むように大きく首を振られた。
鬣と一緒に手綱が激しく揺れ、 鞭のようにぶつかる。
私の手は空気を掠った。

「待って!」

私の訴えを振り払い、 ジャンの馬は並走していた馬に衝突する勢いで走り去ってしまった。
______必死に逃げるかのようにだ______
______どうしよう……
今は個人の感情や欲求に揺らぐべきではないとわかっていても、
すぐにジャンを探しに行きたくてたまらなくなった。
巨人と戦ったことは間違いない。
殺されてしまった? そう考えるだけで血の気が引いてゆく。
______ジャンが死ぬわけない! 生きてるに決まってる……!
首を振り、 その考えごと振り払おうとした。
生きてる。 きっと、 ジャンは生きてる。
______でも……、
馬なしでこの平地に……!?
そんな状況、 すぐに巨人に食われてしまう自殺行為だ。
こみ上げてきた涙で視界が歪む。 それを流すまいと全力を注いだ。
前だけをまっすぐに見つめて手綱を強く握る。
陣形を乱すわけにはいかない。
蹄が力強く地面を駆ける音が、 心臓にまで響いた。
そして、 右翼索敵班は壊滅状態。
団長は撤退を考えてはいないらしい。 東の進路を進みつづけている。
目的地は南だ。
この先、 どうなってしまうのだろうと思いながら進みつづければ、
巨大樹の森が見えてきた。
団長からの指示伝達は、 中列、 荷馬車護衛班のみ森に侵入。
後方寄りの私たちは森には入らず、 その周囲に向かうのだ。
森を避けて進めばいいのに、 なぜ______?

「当初の作戦は放棄だ! 全員馬を降りて木に登れ! 剣は抜いておけ。 いいな?
そして、 森に巨人を入れるな!」

これが班長からの指示と命令だ。
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