夢小説 ATTACK ON TITAN


□7話
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皮肉にも、 マルコの死がきっかけで、 ジャンと私は一緒にいることが多くなった。
だからと言って私たちは一緒にいるとき、 マルコのことを語り合ったりはしない。
マルコの思い出話をして、 過去だけの人物にしたくなかった。
今と言うこの瞬間、 ジャンとマルコは憲兵団になっていたはずなのだ。
自己中心的で負けず嫌いなジャン。______私も人のことは言えないけれど______
悪い人ではなくても、 そんな性格だからたびたび私と突っかかり合って、
______と言っても、 エレンとのそれと比べれば穏やかだと思う______
私たちはマルコに宥められるのだ。 ときどきはアルミンも一緒に。
そうして訓練兵を卒業して、 ジャンとマルコは憲兵になり、 私は調査兵。
解散式の日にマルコと交わした約束通り、 私たちはときどきは会って食事をしたかもしれない。
ときどきは三人一緒かもしれない。
訓練兵の思い出話しに花を咲かせ、 近状報告なんかして、 くだらないことに笑い合って。
そうなると思って疑わなかった______。

「便所か? おせーよ」

「うるさいなあ」

相変わらずの口振りを受け流すように、 私はジャンの隣に腰を下ろした。
(席がここしか空いてなかったのだ)
でも、 本当に遅くなってしまった。 みんなとっくに着席している。

「よおーし、 全員いるな? 始めるぞ」

ディータ・ ネス班長がすぐにやってきた。
トレードマークなのだろうか、 今日もバンダナをしている。
______バンダナの下は愛馬に髪を毟られてしまったのか、 つるつるだ______
長距離索敵陣形。
一ヶ月後に控えた壁外調査に備え、 調査兵団に入って真っ先に、 私たちはネス班長によってこれを叩きこまれた。
______実践よりも、 これが重要視されている______

「お前達新兵はここだ! 荷馬車の護衛班と索敵支援班の中間。
ここで予備の馬との並走・ 伝達を任せる」

その陣形に、 エレンの配置は記されていない______。
そんなエレンと私たちは、 夕方、 再会した。
長い講義のあとだ。 馬小屋のそばで。
おい、 と呼ばれ「しばらく振りに会った気がするぞ」
既に調査兵団のマント姿で。

「何か……ひどいことはされなかったの?
体を隅々まで調べ尽くされたとか、 精神的な苦痛を受けたとか
「ね……ねぇよ。 そんなことは」

ミカサはエレンに激しく抱きつく勢いだ。 エレンはたじろいでいる。

「……あのチビは調子に乗りすぎた……
いつか私が然るべき報いを……」

「……まさかリヴァイ兵長のことを言ってるのか?」

チビ呼ばわりされたリヴァイ兵士長は、 愛馬と共にすぐそばにいた。
それに気づいていたのは私だけ。

「よ! エレン」

「久しぶりです!」

コニ―とサシャにつづき、 みんなが再会を喜ぶようにエレンを囲んだ。
私はこの場所からそっとリヴァイ兵士長を見つめていた。
重なった視線はすぐに逸らされる。
感じるのは、 針が胸をちくちくと刺すような痛み。
それでもリヴァイ兵士長を見つめようとした、 懲りない私の視線。
気づいたときには、 リヴァイ兵士長は部下
______この夕焼け空のような色の髪をした人だ______とふたりで並んで歩いていた。
後ろ姿が遠退いてゆく……。

「おまえらも調査兵になったのか?
ってことは憲兵団に行ったのはアニとマルコとジャンだけで、
あとはみんな、 駐屯兵かそれ以外ってことか……」

「マルコは死んだ」

マルコの名前がでた瞬間、 少し離れた場所にいたジャンがエレンに近づいた。
ジャンが調査兵になったことに誰よりも驚いたのはエレンだ。

「今……今、 何て言った? マルコが?
死んだ……って言ったのか?」

私は地面を睨んだ。
ジャンの声が、 頭のてっぺんから降ってくる。

「誰しも劇的に死ねるってわけでもないらしいぜ。
どんな最期だったかもわかんねぇよ……立体機動装置もつけてねぇし……
あいつは誰も見てない所で人知れず死んだんだ」

ジャンの行き場のない嘆きが、 エレンの戦慄きが、 仲間の悲痛な面持ちが、
手に取るようにわかる。

「おーい! 新兵集まれ! 制服が届いたぞ!」

ネス班長の陽気な声が響いてきた。
その隣には、 緑色のマントを抱えて唇に笑みを結ぶ、 ルーク・ シスの姿。
私たちは、 ふたりから受け取った真新しいマントを羽織った。
背に抱く自由の翼が、 風になびいて揺れる。
______本当にこんな日がくるなんて……
五年前の自分には想像もつかないことだった。 調査兵になったなんて______。
リヴァイ兵士長と兄と同じ、 自由の翼を纏ったのだ。
エレンは私たちをじっと見つめ、 瞳を揺らした。
そして目を丸くすると、 誰に言うわけでもなく、 くぐもり声で
「今、 マルコがいた気がした……」と。
ジャンと私は、 涙を堪えることに必死だった。
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