夢小説 ATTACK ON TITAN


□4話
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人垣に押し潰されそう。

「来たぞ! 調査兵団の主力部隊だ!」

「エルヴィン団長! 巨人共を蹴散らして下さい!」

エレン、 ミカサ、 アルミン、 フランツ、 ハンナ、 と、 私は調査兵団の列を眺める。
五年前とは全く違う。 歓声まであがっているのだ。
英雄の見送りみたいだと私は思う。
私たちのなかで特に、 エレンはそんな感じだ。

「おい……見ろ! 人類最強の兵士リヴァイ兵士長だ!
一人で一個旅団並みの戦力があるってよ!」

馬に跨ったリヴァイ兵士長がやってくると、 歓声はますます大きくなる。
アルミンもエレンのように羨望の眼差しを向けた。
私はここでこうしてリヴァイ兵士長を見つめていると、 五年前の私を思いだす。
強さを秘めた瞳、 揺れる黒髪、 凛とした何も恐れていないかのような横顔、
目が離せない。 自由の翼の紋章がまぶしかった。
私のポケットのなかにもある自由の翼______薄汚れ色褪せたそれを握り締める。
しかめ面のリヴァイ兵士長と目が合った、 そんな気がした。

「私に……兄がいたんですか!?」

「ああ。 あの時……初めておまえと会った時からファーランの面影を感じてた」

昨夜、 リヴァイ兵士長は私には兄がいたと言うことを教えてくれた。
ファーランと言う私の兄は戦死したと言うこと、 この紋章はそのときにリヴァイ兵士長が入手したものだと言うこと、
兄と私を産んだ母親は元は王都地下街の者であり、 病死したと言うことを……。
小さい頃からずっと知りたかったことだった。
自分がどんな風に生まれ、 なぜ孤児になったのか。
全てではないけれど、 リヴァイ兵士長は教えてくれた。
握り締める紋章に、 私の涙がぽつぽつと落下する。

「兄のこと……ファーラン・ チャーチのこと、 いっぱい知ってるんですよね?
教えてください……!」

鼻をすすりながらリヴァイ兵士長を見上げた。

「知りたいか? “全て”を______」

リヴァイ兵士長の表情は一変する。 怖いくらいに。
その”全て”を今、 ここで聞くには心の準備が必要かもしれない。
今、 私がその”全て”を受け止められるかの自信もなかった。
だって、 いくら知りたかったことでも、 こんなに急だからこそ気が動転している。
リヴァイ兵士長はとても怖い顔をしているのに、 優しい手つきで私の涙を拭ってくれた。

「壁外調査から帰って来たら話してやる」

私はまた鼻をすする。

「約束だ」と言い、 リヴァイ兵士長は最後にもう一度、 紋章を握り締めた私の手に手を重ねて去っていった。

______どうかご無事で……!
私がそう願わなくても、 あの人はとても強いから、 きっと生きて帰ってくるだろう。

「五年前とは全然違うな! 調査兵団にこんなに期待する人たちがいる」

エレンの声を聞きながら、 私はそうだねとだけ言い、
リヴァイ兵士長が背に抱く自由の翼を見つめる。

「みんなの気分が明るくなってきてるんだよ! もう五年も何もないし」ハンナがそう言うと、

「固定砲も改良されてるしな! 大型巨人なんて来ないんじゃないか!?」
寄り添うフランツがこたえる。

「だよねっ!」
無邪気なハンナの声、 見つめ合うふたり。
私だけじゃなく、 アルミンもミカサもやれやれと思っている。

「何腑抜けたこと言ってんだ! バカ夫婦! そんなことじゃ______」

エレンは声を張り上げて眉根を寄せた。

「そ、 そんな……夫婦だなんて……」

ハンナは顔を真っ赤にしている。

「お似合い夫婦だなんて……気が早いよエレン!」

フランツまで。
エレンは苛立ちすら感じているらしく、 アルミンがまあまあと宥めている。
ミカサは黙っているけれど、 呆れているのは確かだ。
______ちなみに“お似合い”とは誰も言ってない
私も呆れるところなのだけれど、 それどころかどこか憎めない。
ふたりはいつも幸せそうなのだ。 本当に、 心から。
顔を真っ赤にしたままのハンナと目が合った。
私は、 彼女があのとき話してくれたことを今でも覚えている。
______どきどきして、 この人のそばにいたい、 この人になら全てを捧げてもいいと思う、
この人を守りたい______
真っ赤な顔、 その赤毛と同じだと、 思わず笑いをこぼす。
ずっと、 私には理解不能で無関係な感情だと思っていたのに……。
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