夢小説 ATTACK ON TITAN


□3話
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みっともない顔が鏡の向こうからこっちを見ている______私だ。
ぼろぼろの身なり。 休む間もない荒地での農作業で髪は乱れ、 顔も薄汚れている。
冷たい水で顔を洗い、 絡まった髪を引っ張るようにブラシを通す。
とうとうこの日がやってきた______……。
12歳になったのだ、 これでやっと訓練兵に志願できる。
兵士になればこの生活から抜け出せる。 自分の力で生きてゆける。
そして自由の翼を背に抱くあの人に______……、

「ガキが一丁前に訓練兵に志願だとよ、 どうせおまえらなんかが訓練兵になれたとしても
すぐにビビって小便チビらせて戻って来るんだろうよ!
おとなしく仕事に励んでりゃあいいのによお、 腰抜けのくせに」

開拓地を発つ日の朝、 ずる賢い知恵だけを持った家畜______家畜と言う表現はエレンの受け売りだ______
らは、 訓練兵に志願しようとするエレン、 ミカサ、 アルミン、 私をせせら笑った。

「何だと!? この野郎______、」

いつものようにエレンが突っかかるのだけれど、 今回は私がエレンよりひと足早くこの家畜に立ち向かう。

「本当の腰抜けはおまえらのことだよ。
都合のいいときだけ年寄り面して奪還作戦は若者だけがいくべきだと主張して、
毎日の仕事も女や子供がやるべきだと一方的に押しつけて、
そのくせ自分らは毎日毎日煙草だ酒だ飯だとぐうたらして、 あれはだめだこれはだめだ、
ああしろこうしろ、 口先ばっかり……!
私たちが腰抜け? 笑わせないで。
私たちはまだ子どもだけど、 少なくともおまえらよりは毎日必死に生きてきた。
これらかだって必死に生きてやる。
家畜______いや、 それすらなれない、 それ以下のおまえらとは違うの」

生き残りたくても、 這い上がりたくても、
私たちをこき使うだけの堕落したこんな連中のようにはなりたくなかった、 絶対に。

新兵訓練施設には大勢の志願者が押し寄せていた。
______この年は特に志願者が多かったらしい______
建物自体は決して大きくはないけれど敷地は広く、 有刺鉄線がぐるりと囲み、 その上に鉄条網も。
鬼教官と初めて顔を合わせたのは入団式ではなくこの日だった。
志願者名簿に自分の名前を書いたときだ。

「……チャーチ?」

名簿に書いた名前を一見して、 私の顔を見て、 鬼教官は一瞬だけ驚いた顔をしていた。
巨人から私を助けてくれたあの人みたいに。
いったい私の顔のどこに驚く要素があると言うのだろう。
孤児院にいたとき、 髪や目の色が濃いことから東洋人の血が混じっていそうだと言われたことはあるけれど、 それが理由ではなさそうだ。

「はい……! エミリ・ チャーチと申します」

覚えたての敬礼をして答えた。
けれど、 鬼教官はそれ以上何も言わなかった。

______私はエミリ・ チャーチです
ずっとずっと、 また会いたいと思っていたあの人______リヴァイ兵士長と言うらしい______に
自分の名前を告げようとした。
突然の再会、 震えながらも背筋を伸ばして拳を力強く胸にあてる。
精いっぱいの心からの敬礼だ。

「ガキでもそこそこ成長したようだな、 エミリ・ チャーチ」

「どうして私の名前を……!?」

「訓練兵の名前なんか調べりゃすぐわかる」

「そう……ですね」

あのときと変わらないぶっきらぼうな口調、 風になびく黒髪と自由の翼を背に抱くマント。
唯一、 少しだけ変わったのは、
私の背が伸びてリヴァイ兵士長との身長差が縮まったことくらい。
この人がどんなにすごい人かは訓練兵のほとんどが知っているようだ。
注目が私たち______いや、 リヴァイ兵士長に集まっている。
リヴァイ兵士長は周囲の好奇に満ちた視線に顔をしかめた。

「おい、 場所変えるぞ」

「で、 でも私、 訓練中で……」

「てめぇの教官になら話をつけておいてある。 さっさと来い」

力強く腕を引っぱられ、 上半身が傾く。
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