夢小説 ATTACK ON TITAN


□コバルトグリーン
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今夜俺の部屋に来い。

訓練の後、 すれ違いざまに、 そう囁かれた。
夕食後の自由時間に私はリヴァイ兵長のドアをノックする。
コン、 コン、 と二回。

「失礼します、 兵長」

だけど、 返事はない。
一瞬だけ躊躇したけれど、 私はドアを開けた。 もう一度、 失礼しますと言って。

「リヴァイ兵長……?」

部屋に兵長の姿はなかった。
皺ひとつないシーツのはられたベッドや、 塵ひとつ落ちていない床が兵長の不在を主張しているように感じる。
出直そうと思った瞬間、 ベッドサイドのチェストに置かれている瓶が視界に入った。
四角い瓶に入ったコバルトグリーンの液体______香水だ。
一度はドアに向かったものの、 香水の瓶に手を伸ばす。
そっと鼻を近づけてみればたちまち鼻先をくすぐられ、 胸の奥が焦がれる。
嗚呼、 この香り______ 
私をたちまち切なく苦しく、 幸せにさせてしまう兵長の香り。
“______今夜俺の部屋に来い______”
あのとき、 すれ違いざまの囁きと共に残し去った香り。
ふりかけてみると細かい粒子にむせ返る。
だけどそれは一瞬で、 香りはたちまち私を包みこむ。
目を閉じて香りだけを感じれば、 まるで兵長に抱きしめられているみたいだ。

「おいエミリ、 何してんだ?」

声まで聞こえてしまうなんて、 なんてリアルなのだろう。

「エミリ」

肩をつかまれ、 我に返る。
幻想ではなく本物のリヴァイ兵長が目の前にいる。 怖い顔をして。

「ごっ、 ごめんなさい……! 勝手に部屋に入って……。
一度は出直そうと思ったんですけど、 香水の瓶が綺麗だなって思ってつい……」

兵長は、ほう……と言い、 私の手から瓶を抜き取った。
それをチェストの引き出しに仕舞う。

「それで勝手に匂いを嗅いでたってわけか?」

「はい、 すいません……」

兵長は許さんと言わんばかりに私を突き飛ばした。
背中からベッドに倒れる。
起き上がろうとするより早く兵長が圧しかかってきた。 軋む音をたてて。
兵長がじっと私を見下ろしている。

「あの……、 どうして私を呼んだんですか?」

兵長は答えてくれない。
そんなにまで怒らせてしまったのだろうかと不安を煽るように、 体を押さえつけられる。

「兵長______、」

その先の言葉を唇で封じられた。
呼吸が苦しくなるほどのキスだ。
兵長がスカーフを解く光景が、 ぼやけかけた視界に見える。
いつの間にか私たちのジャケットはベッドの下にあった。
自由の翼が重なり合っている。
ジャケットの下______体に複雑に絡み合うようなベルトを千切るように引っ張られた瞬間、
私は両手に渾身の力をこめた。 兵長の胸を押さえて抵抗する。
ベルトは、 弾けたようにぶちっと音をたてて外れた。

「……兵長! 答えてください。 どうして私を呼んだんですか?
それに……いくらなんでも突然こんな乱暴なことするなんて、 ひどいじゃないですか!」

やっぱりずっと怖い顔。
そんな顔でじっと見下ろされたままだ。

「悪かった……」

だけどその声だけは穏やかだった。
軋む音をたてて兵長は体を起こすと、 ベッドサイドに腰かける。
ようやく体が自由になった私も上半身を起こした。
真っ白なシャツの背中をじっと見つめて。

「おまえとふたりで会うための口実だ」

どんな顔して言ったのかわからない言葉に、 私はその背中を抱きしめたくなった。
むしろ、 抱きしめた。
頬をすり寄せればあの香水と同じ匂いがする______。
私だって本当は兵長とふたりで会える口実が欲しかったのだ。
兵士長と新兵ではなく別の意味での______……。
膝を立てて兵長の首元に腕を絡めた。
香水の奥の兵長の匂いにうっとりしていると、 そっと振り向く灰色の瞳に捕まる。

「ただ、 触れたくてたまらなかっただけだ」

掠れてしまいそうなほど低い声に頷き、 私は目を閉じた。
今度はどちらからともなく唇をくっつける。
舌を絡め合いながら私は兵長の背中ごと抱きしめ、 兵長の手は私の手の上を滑らかに動き、
頭の後ろを押さえられた。

「苦しいですね……」

舌が熱い。 唇も。 どちらの熱なのかもわからなくなるほど濃厚なキスだ。

「嫌なら俺を振り解いていい。
この部屋を出て行くか……このまま抱かれるか……選べ」
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