夢小説 ATTACK ON TITAN


□2話
1ページ/6ページ


銀色の髪、 優しく笑いかけてくれた人______
ずっと私のなかでぼやけたまま住みついている、 あなたは誰______?

ほの白い光りが窓に差しこみ、 眩しさで目を覚ます。
ルームメイトたちは眠っている。
私は上半身を起こして膝を立て、 広げた両手をじっと見下ろした。
開拓地での農作業でぼろぼろに荒れた手を。
ルームメイトたちよりも早くベッドからでた私はその手で兵団ジャケットに着替えた。
あのとき、 あの人が着ていたものと同じ______背中の紋章は違う______。
きのうとは打って変わった穏やかな朝だ。
キャンプから外にでて歩く。
すぐそばにある林のなかの坂道を上ると崖にでた。
突き出た崖の先端からは小石がぱらぱらと落下する音が聞こえる。
ここから落ちれば即死だろうけど、 ここから見える湖がとても美しいことに驚いた。
朝陽が光の道筋を作り、 水面を宝石のように輝かせている。
澄んだ空気は湖を囲む山や森の緑を際立たせていた。
しらばく魅入っていると、 背後で小枝が乾いた音をたてて踏みつけられる音が______、

「あ……、」

やや間の抜けた声を背中に感じ、 振り向けばエレン・ イェーガーがそこにいる。

「エミリか……誰がそこに突っ立ってるのかと思ったよ。
何してんだよ、 こんな朝っぱらから」

エレンは額に包帯を巻いている。
______きのうの姿勢制御訓練で地面に強打したからだ______

「べつに……早く目が覚めたから朝の散歩。
そっちこそ何?」

「俺もおまえと同じだ」

エレンは私の隣に立った。
私は、 ふうんとだけ返事をする。
エレンもそうだが、 ミカサ・ アッカ―マン、 アルミン・ アルレルトとは
荒地の開拓で大人たちにこき使われながらも共に耐え抜いてきた仲間。
______仲間______なのだろうか……______
独りでいた人生が長かった私には彼らとの接し方が未だにわからない。

「姿勢制御訓練、 苦闘してるみたいだね」

なぜだか沈黙が居心地悪く感じてしまい、 咄嗟にこんなことを言ってしまったけれど
他の話題にすればよかったかもしれない。
なんだか嫌味っぽく響いてしまった気がしのだ。
言葉にしてしまった以上は、 もう遅い。

「ああ、 今日パスできなかったら開拓地行きだ……」

エレンは包帯を解いて握りしめた。
額はまだ少し赤い。
朝のひんやりとした風が私たちの髪を揺らしている。

「……できるよ」

私の声は、 言葉は、 呼吸や瞬きをするようにごく自然にでてきた。
エレンが「え」とあげた声が小さく聞こえた。
隣で翠色の目を丸くしているのが見なくてもわかる。

「壁のなかで損得しか考えることができない、
他人を貶めることしかできない連中ばっかり……エレンのような人こそ兵士になるべきだよ」

エレンは頭を掻いた。

「自分を信じて。 きっとパスできる」

エレンへ伝えた言葉なのに、 なんだか自分の祈りのように感じてしまう。
もちろん、 こんなことエレン本人には言えないけれど。

「お、 おう……ありがとう」

ここでの私たちの会話はこれだけだ。

「エレン! どこに行ってたの!?
アルミンが起きたらエレンのベッドが空になってたって言ってたから……」

キャンプへと戻ると真っ先にミカサが飛んできた。

「別に……ただちょっと散歩してただけだ」

「エミリと二人きりで!?」

ミカサは私を睨みつける。

「かっ、 勘違いするなよ! こいつと偶然外で会ったんだ」

エレンは私とミカサを交互に見つめた。
「そうだよな?」と、 目で訴えられる。

「その通りだよ。 べつに私、 エレンと二人きりで会う理由なんかないしね」

私がそう言っても、 ミカサはしばらく疑いの目で睨みつけていた。
やれやれ、 これ以上の面倒なんてごめんだ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ