夢小説 ATTACK ON TITAN


□親愛なるチャーチ
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銀色の髪、 優しく笑いかけてくれた人がいた______。
遠い昔の唯一の記憶なのか、 ずっと前に見た夢なのか、
それともただの空想や幻の類だったのか……
赤ん坊の頃から既に独りぼっちだった私には確かめようがない______……

私は庭にある大きな木に寄りかかって立ちながら、 ぼんやりと空を見上げた。
雲ひとつない晴れ渡った空だ。 枝に止まっていた鳥が鳴き、 羽ばたいてゆく。
羽ばたき、 50メートルの壁を悠々と越えていった。
壁を越えていった鳥はあっという間に見えなくなってしまった。

「エミリ・ チャーチ、 お話があります。 来なさい」

去っていった鳥と引き換えのようにやってきたのは、 険しい顔をした院長先生だ。
私は黙って院長先生の後についた。

______きっとまたお説教だ

こんなことは今にはじまったことではないし、 ちっとも珍しくない。
廊下を進むと集中する視線が皮膚にまで感じた。
みんな、 院長先生を見て、 後ろを歩く私を見ると大袈裟なリアクションで左右に避ける。
おい、 きたぞきたぞ! エミリの奴、 また怒られるぞ!
院長先生の後ろを歩く私を見て男の子たちがからかう。
女の子たちはくすくす笑ったり、 ひそひそ話。
今度は何をやったのかしらねー?
院長先生と部屋に入り、 ドアが閉まるまで視線は集中していた。
院長先生は部屋に入ると椅子に腰かける。 私は黙ったまま机の前に立つ。
そして、 院長先生は青白い顔をして机の引きだしから一冊の本を取りだした。

「今朝、 マリッサがあなたのベッドにあったと持って来ました。
枕の下に隠してあったと______
これはあなたが持っていた物で間違いないですね?」

私が一瞬だけ目を丸くしたのを院長先生は見逃さなかったようだ。
薄汚れた表紙に、 所々ページが破れているぼろぼろの本。
ずっと前、 街を歩いていたときに路地裏で拾ったのだ。
誰が捨てたのか落としたのかもわからない、 この時代に読むことはタブーとされている
______壁の外の世界のことが書いてあるのだ。 
海と言う果てしない塩水や、 氷の大地が存在すると言うこと……______
自由を夢見ることができる唯一の本だ。

「何故こんな本を!? こんな……法に反する物をいったいどこで______!?」

私は院長先生の机の後ろの大きな窓の外をじっと見つめた。
ここからでも見える青い空……そして、 壁を。
窓から差しこむ陽ざしが院長先生の悪趣味な眼鏡チェーンに反射している。

「とにかく、 この本は早急に処分します……!
異端と呼ばれてもおかしくないこんな本______!」

異端。
きっと私にはこの言葉が当てはまるかもしれない。
壁の中での______厄介払いのために孤児院を転々とした人生にうんざりで、 それは鳥籠に生涯閉じこもっているよう。
外の世界に憧れる……いつかこの目で外の世界を見てみたいと思うのだ。

「エミリ、 聞いてるんですか!?」

院長先生の声がヒステリックに響く。

「……聞こえてます」

「な______、」

なんて生意気な子なの!?
院長先生はこういいたかったのだろう。

「とにかく……今後一切こんな本を読んだりすることは禁止ですからね!
いいですか!?」

「はい」

大丈夫、 感情を押し殺すことに私はとっくに慣れている。
一時の激情に支配されるなんて無駄にエネルギーを使い果たすだけ。
理不尽で残酷しかないこの場所で生きるためには、 いつかの自由を手に入れたいのなら、
自分で自分を守る術を身につけるのだ。

「……わかったのならよろしい。 もう行きなさい」

院長先生の部屋をでると、 ドアの外で聞き耳をたててた連中が大勢。
そのなかには私の枕の下から勝手に本を抜き取ったマリッサもいた。
彼女の勝ち誇ったような顔といったら______。

「異端者! エミリは異端者!」

連中のなかの一人が言いだせばみんながみんな面白がって口を揃える。
異端 異端 異端!
嗚呼恐ろしい、 憎悪するべきものたちだ。
100年以上昔に現れたといわれている巨人よりもあの連中がだ。
その後、 院長先生に罰掃除を言い渡されていたけれど放棄した。
更なるお説教なんてお構いなしに、 私はこっそりと外に抜けだす。
孤児院の連中と同じ空気を吸いたくないのだ。 一分一秒だって______……。

「見ろ、 調査兵団が帰って来たぞ!」

鐘が鳴り、 街のあちこちでそんな声があがっている。
人々が道に群がり、 あちこちの家の窓が開いた。
私は大勢の大人たちのすき間から、 帰還した調査兵団の列を眺める。
無事帰還した兵士たちを出迎える気など、 大人たちは端からないらしい。
たったこれだけしか帰って来なかったのか? みんな巨人に喰われちまったのかよ、
だから壁の外になんて出るもんじゃないんだ。 なんてひそひそと言い合っている。
ほとんどの兵士が怪我を負っていて、 絶望としかいいようがない顔。
馬の蹄の音だけが虚しく響く。
だけど私は、 その列のなかにひと筋の光のようなものを感じた。
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