夢小説 ATTACK ON TITAN


□兵士の休息
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リヴァイは廊下を進みながら窓の外を眺めた。
夜の闇に包まれ、 雪が降ってきたかと思えば吹雪いている。

オー・ クリスマスツリー オー・ クリスマスツリー 美しい木よ
オー・ クリスマスツリー オー・ クリスマスツリー 見事な眺め
輝くその星 やさしく光るよ
オー・ クリスマスツリー オー・ クリスマスツリー 心やすらぐ


冷たい空気が漂う暗い廊下、 凍えるような寒さとは対照的な灯りと歌声が食堂から漏れている。
この灯りの場所で誰が下手くそな歌を口ずさんでいるかなど、 リヴァイにはお見通しだ。

「あ……リヴァイ兵長、 まだ起きてたんですか?
みんな部屋に引き上げたから寝てると思ってたのに」

エミリは食堂に入ってきたリヴァイと目が合った瞬間、 悪戯が見つかってしまった子どものように目を丸くした。
だけどすぐにやわらかな笑みを浮かべる。

「こんな時間に何をしている?」

「明日はクリスマス・ イヴだからツリーをと思ったんです」

エミリは背筋をぴんと伸ばして立ち、 後ろ手を組んだ。
リヴァイはふんと鼻を鳴らして言う、 くだらねえと。

「モミの木、 少し小さいけど手に入れられたし、 こうして飾れば華やかでしょ?
あっ、 でも、 りんごは明日になればサシャに食べられちゃうかも……」

オーナメントやリボンやキャンディケインなんて手に入らないので、 エミリは蝋燭とりんごを飾っていた。
リヴァイは再びふんと鼻を鳴らし、 暖炉に薪を投げ入れるとそばにあった椅子に座った。
背もたれに肘を置き、 足を組んで。

「……さすがに今夜は冷えるな」

暖炉の火を見つめながら言う。

「紅茶淹れるんですけど飲みませんか?」

エミリはポットとカップを取り出した。
リヴァイは静かに振り向き、 「ああ、 もらおう」と。
それを聞いてカップをもうひとつ。
エミリが飾った小さなクリスマスツリーをリヴァイはぼんやりと眺めた。
______エミリはそのそばで沸かしたお湯をゆっくりとポットに注いでいる。______
クリスマスだなんてバカバカしい。 それに浮かれるなんてことも。
だけど、 このツリーのちっぽけな灯りは、 暖炉の火は、 ふたりでは広すぎる食堂と部屋の灯りは、
エミリもまだ起きていてここにいて一緒に紅茶を飲むと言う瞬間は、 少なくともリヴァイに温もりを感じさせた。
______悪くねえ
そう感じてしまうのは、 外は暗闇に包まれ凍えてしまう寒さだからだろうか______。

「おい、 どれだけ入れるつもりだ?」

リヴァイはエミリに向かって眉間の皺を深くした。

「え? だって甘い方がおいしいじゃないですか」

エミリはきょとんとしている。
シュガーポットとカップのあいだをティースプーンが何往復もしているのだ。

「てめえは昆虫か……!」

「こっ……、 ひどーい! せめて甘党と言ってくださいよ!」

「もういっそのこと砂糖だけ食ってろ」

そんなやり取りをしながら、 ふたりは紅茶をもう一杯飲んで眠ることにした。
______エミリは砂糖がたっぷり入った甘ったるい紅茶を二杯も飲んだのだ!______

「こんな吹雪じゃ練習は中止で壁外調査も延期になるだろうな」

蝋燭を手に、 リヴァイは窓の外に視線を流して言う。
エミリは吹雪が窓をがたがたと鳴らす音に耳を澄ませた。

「……だとしたら私たち、 生きていられる時間がその分多くなりますね」

リヴァイはそうだなとだけ言い、 ふたりは見つめ合った。
蝋燭の火が隙間風で揺れている。 
そっと伸びたリヴァイの手がエミリの頭のてっぺんに置かれた。
髪を撫でるわけでもなく、 その手を滑らせて頬を撫でるわけでもなく、 抱き寄せてキスするわけでもなく、 ただぽんと置かれた。
エミリは顔をくしゃっとさせて笑う。
リヴァイの手がなんだかくすぐったく感じた。

「じゃあ……おやすみなさい兵長」

その手からそっと離れるようにして、 エミリは自分の部屋へとつづく曲がり角を進んだ。
リヴァイはその後ろ姿を静かに見送った。
エミリにほんの一瞬触れた手でそっと拳を握る。
吹雪は翌朝には治まったものの、 雪は止むことなく降りつづけて外は白銀。
リヴァイの予想通り、 この状態では外での活動は困難で練習は中止となり、
しばらくは馬を走らせることすら不可能なため壁外調査も延期となった。

「よって本日は各自、 立体起動装置の点検後、 体力を温存する為にも休養を取って良しとする」

団長であるエルヴィン・ スミスの知らせに兵士たちは大喜びだ。
この雪のおかげで休暇となったのだから。
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