ドリーマーへ30題


11.たんぽぽ(桃城武)
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健全で不健全と言う矛盾、 新男子高校生の恋愛心理



ひと雨ごとにこの季節が近づいていたようだ。
やっと晴れて暖かくなったかと思えばあちこちで桜は満開。
通学路のあちこちではたんぽぽ。 足元がやけに黄色く感じる。
俺は今日もそのたんぽぽを見やりながら園田との待ち合わせ場所に向かう。

「おはよ、 桃城君」

ぽんと背中を叩かれて振り向けば、 園田が少し息を切らしている。

「おう、 おはよ!」

「今日は桃城君の方が早かったんだね、 後ろ姿が見えたときはびっくりしちゃった」

「まあな、 俺だってたまにはちょっとばかし早起きするってーの!」

今日から新学期。 
今日から俺……いや、 俺達は高校生。
待ち遠しかったこの日。

着慣れた学ラン。 高生ボタンだけがやけにぴかぴかしてる気がする。
園田の胸の前で揺れているリボンも高等部仕様だ。

「さ、 乗れよ。 入学式に遅れないように飛ばして行くぞ」

「もおー……まだ時間はたっぷりあるんだからゆっくり歩いたって余裕だよ。
安全運転でね」

中等部からの習慣。
園田が俺の後ろに乗り、 俺は自転車をふっ飛ばす。
(ふっ飛ばしながらも背中で園田の温かさと柔らかさと甘いいい匂いを堪能してるのは内緒の話)

「な、 なあ……」

「んー? なあにー?」

そっと咳払いして呼吸を整え、 声が後ろまで届くように少しだけ首をひねる。
そうすると風で揺れる園田の髪が頬に触れてくすぐったい。
ああ、 これこれ、 この髪。
柔らかくてさらさらしていて、 シャンプーのようないい匂い。
たまらねーな、 たまらねーよ……じゃねーよ!

「俺達今日から高校生じゃん?」

「うん」

「中二のときから付き合ってる仲だし……さ」

「……うん?」

園田の顔は見えないものの、 俺がこれから何を言い出すのかと構えている気配がわかる。

「そろそろ……お互い名前で呼ばねーか?」

そして、 数秒ほどの間があいた。

「……うん!」

予想外に返事は弾んだ声で嬉しかった。
思わず俺は風にかき消されるくらいの声で「よっしゃ!」
よっしゃあ!

「じゃ、 じゃあ……武…武君」

「おいおい”君”付けはかてーな、 かてーよ!」

「だって……なんか今更だけど照れちゃって……」

背中の真ん中めがけて園田が猫のように頭を擦りつけて来た。
可愛いぜチクショウ……!

「俺は普通に呼ぶぞ!……美咲」

「うん……」

そしてまた猫のように頭を擦りつけて来る。
やっぱり可愛いぜチクショウ……!


*


「桃城ーおまえはいいよなー高等部入学早々彼女とイチャついててよおー。
あーあ、 俺も高等部でこそ彼女欲しいぜ」

謙遜も否定もせず、 俺は誇らしげに笑ってやった。
そうなのだ。 高等部入学早々いい感じだ。
園田……美咲とはクラスが離れてしまったものの、
荒井や他の奴らとは隣のクラス。
中等部からの腐れ縁だ。

「でよお、 どこまで行ったんだよ!? 園田と、
中等部からの仲だろ? まさかもうやっちまった……!?」

ストローで吸い切れなかったジュースがストローと、 差しこみ口と紙パックの隙間から大噴射。
おまけに器官に入ってむせた。

「ぅわ……! きったねえなあ!」

「う、 うるせーな! おまえが突然変なこと言うからだろ!」

荒井は全く悪びれる様子もなく、
「で、 ぶっちゃけどこまでよ?」

俺は手の甲で口元を拭い、 紙パックを潰す。

「どこまでって……待ち合わせて一緒に登下校すんのとか……」

それでそれで? と、 荒井。
潰した紙パックをゴミ箱に投げる。 俺。

「あ、 お互いを名前で呼び合ってよお」

あとは? と、 荒井。

「あとは……まあ、 そんくらいかな」

「それだけかよ!?」

「ああ」

はあぁーっ!? と、 荒井は声を張り上げた。

「中等部から付き合っててそれだけかよ!
もっとこう……」

「あ、 手をつないだことはあった……かな。
自然の成り行きっつーかよ」

思い出すと照れる。

「キスもしてねーのか!?」

荒井の荒い声(ダジャレみたいだ)の奥に、 美咲の柔らかそうな唇が思い浮かぶ。

「す、 するかよっ!」

「し……、 信じられねえ! 俺だったら考えられねえ……。
おまえが幼稚なのか我慢強いのか……俺だったら耐えられねーな」

「……」

確かに俺自身、 そろそろその先へ進んでもいいんじゃないか……むしろ先に進みたいと思っている。
その先と言うと______……キスだ。
キスの先は______……

「だらしねえ顔して突っ立ってるんじゃねえよ、 邪魔だ」

その声はマムシ……いや、 海堂だ。

「何だよ! この______、」

言われてみれば確かに。
俺、 めちゃくちゃだらしない顔してたかもしれない。
鼻の下なんか絶対に伸びてた。
頭をがしがしと掻きながら、 マムシ……海堂に続き部活に向かう。 

そう、 悩んだって仕方のないことだ。
俺達には俺達のペースがあるのだ。
いつかは美咲とA, B, C……なんて思わずスケベ寄りな妄想が広がってしまう。

「このタコ、 練習遅刻するぞ」

いつの間にか背後にいた海堂に蹴られた。
いてぇ……!
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