ドリーマーへ30題


04.苦笑い(仁王雅治)
1ページ/3ページ





悪魔をも騙せる男の行く末






赤レンガ倉庫の屋根を四角く平らにしたような外観。
それが立海大付属中学校。

海林館(部室棟)の窓から、 仁王雅治はマネージャーの園田美咲の姿を捉えた。




______なんじゃアイツ、 まだ帰っとらんかったんか




窓にぴったりと貼りつく勢いで、
______実際、 窓のそばにはトロフィーがごろごろと並んでいてそうはいかない。______

仁王は首を伸ばして美咲を見つめた。
トロフィーで視界が狭くなるのがもどかしい。
美咲はひとり
テニスコートを横切り、 そのまま中庭を進み海志館(旧校舎)の角を曲がって行った。 
校門は別方向だ。
どうやら海風館(カフェテリアがある)に向かうらしい。
仁王は眉を寄せる。

放課後にカフェテリア______?

眉を寄せたまま、 美咲の姿が見なくなっても窓の外を見つめる。
だけど、 その数秒後には窓から離れ、 ロッカーを乱暴に開いて大急ぎで制服に着替えた。
ネクタイを結びながら部室のドアを閉める。
乱暴にドアが閉まった弾みで、 過去の試合の記録や他校のデータが収められている本棚が揺れた。

緩めに結んだネクタイを揺らして、 仁王は走る。
ついさっき、 美咲がそうしていたようにテニスコートを横切り、
中庭を進み、 海志館の角を曲がって。

そのまま海風館に飛びこむ勢いで入ろうとした。

した。 けれど________、

慌てて両足にブレーキをかけた。
周囲を見渡し、 海風館の隣、 海友館(大教室がある)の柱に身を隠すようにして背中をぴったりとくっつけた。
そっと、 その柱の陰から顔を覗かせる。

美咲は、 いた。

海風館の外にあるベンチにぼんやりと腰かけている。
特に誰を待っていると言うわけでもないらしい。
ちょこんと膝を揃えて座り、 顔を持ち上げたり下げたりして考えごとをしている様子。
膝の上に乗せているバッグから何かを取り出した。
手に取ってそれを眺めて、 バッグに仕舞いこむ。
しきりにそれをくり返していた。




「プリッ」




口癖のようでもある謎の感嘆詞と共に、 仁王はその場を離れた。








「美咲、 どうしたの? こんなところでぼーっと座ってるなんてさ。
まだ帰ってなかったんだ」




頭上から声がして、 見上げると
クラスメイトの湯沢恵美が、 腰に手を当てて目の前に立っていた。

美咲はほんの一瞬だけ驚くも、 苦笑いする。




「うん・・・・・・ちょっとね。 このまま帰る気になれなくて
少し・・・・考えごと」

「なんだなんだぁー? 恋の悩みってやつ?」




恵美の声に好奇心が混じっている。
恵美もベンチに座り、 隣から美咲の手元を覗きこんだ。
その手には、 ファンシーな封筒。




「そんな感じ。 かな」

「ラブレター、 書いたの?」

「・・・・うん。 でも、 もういいの。
やっぱり勇気でないから渡せないし・・・・・・」




美咲は手紙をバッグに押しこんだ。

そのとき、 恵美は封筒に書かれた宛て名を目にした。

________仁王へ

恵美の隣で、 美咲は手紙を仕舞ったバッグを両腕で抱きしめるように抱える。




「本当にいいの? 渡さなくて・・・・。 せっかく書いたのに」




数秒間の沈黙が流れたあと、 恵美は言う。
美咲は頭を振った。




「仁王のこと・・・・ずっと好きだったからさ、 
いつかは自分の気持ち伝えられたらなって思ったけど・・・・・・
でも、 やっぱ、 いざとなると怖いし」

「・・・・振られるのが?」

「うううん。 まあ・・・・それもあるけどさ・・・・。 それだけが理由じゃないの。
ラブレターだろうと、 直接言おうと、
告白したそのあとが怖いの。
絶対に気まずくなりそう・・・・・・。 まともに顔なんか見れないくらい。
そしたらわたし・・・・テニス部のマネージャー辞めることになりそう」

「そんな・・・・! 告白する前からそんなあとのこと心配してるの!?」

「だって・・・・・・」

「だってじゃないよ。 伝えてみないとわからないじゃん!
それとも・・・・仁王に他に彼女ができてもいいわけ?」

「それは・・・・・・それでショックだけど・・・・・・
でも、 毎日部活で会えるし、 それだけで充分なのかなって・・・・」

「全くもう・・・・・・!」




恵美は目で宙を仰いだ。
美咲は今にも泣き出しそうな顔で俯いていた。
ぎゅっとバッグを抱えたまま。




「私さ、 思うんだけど・・・・仁王もきっと、 美咲のこと好きだと思うよ」




恵美の言葉に、 美咲の目が丸くなる。

見開いた目でじっと恵美を見つめて______。




「・・・・恵美っ! なんでそう思うの?
仁王って普段から謎が多いのに・・・・・・」

「なんでって、 そりゃあ______」




美咲は恵美を見つめている。
まっすぐと。
そのまっすぐすぎる瞳を、 恵美はどうしてだか直視できない。

美咲と恵美。
ベンチに並んで座るふたり。

そんなふたりの元へ、 ある人物は冷やかし半分で声をかけて来た。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ