ツインソウル



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______ある日突然、 彼女は空から落ちてきた。





1 瞳とネクタイ




マリコ・ ハナムラは、 
ついに飛行訓練の授業のときがきてしまったことを憂鬱に感じていた。
純血の魔法使いでありながら、 箒に乗ることだけはどうも苦手なのだ。
いや、 苦手なんてものじゃない。
飛行訓練だけは____箒に乗ることは恐怖だと思う。
昔から高いところが怖く感じていたせいだ。
マグルの世界と違って、 箒に乗ったとしてもシートベルトも命綱もない。
万が一、 バランスを崩して落ちてしまったらどうすればいいの?
第一、 箒は元々アンバランスだ。
箒に乗って跨って、 地面を蹴って飛び立ったとしよう。
この棒につかまって、 どうやって飛行しつづければいいの?




「・・・・・・」




そう考えると、 ますます募ってしまう恐怖感。

唇をほんの少し突きだしながら、 自然と眉根が寄る。
マリコは顔をしかめて足元に置かれている箒を見つめた。
「アップ!」と何度も唱えても、 それは動くどころかびくともしない。

どこかまだ着慣れなさを感じさせる、 むしろ、 ローブと制服に”着られている”ような
マリコを含む横一列に並ぶイッチ年生たち
____ルビウス・ ハグリッドは彼ら一年生をそう呼んでいた。____
から、 さまざまな声音の呪文がくり返し響いていた。

アップ! アップ! アップ! アップ! アップ!




「アップ・・・・ッ!」




そう唱えたのはこれで何度目だろう。
憂鬱すぎるし、 いい加減うんざりだ。
思わずため息がこぼれ落ちる。
そのため息を拾い上げるようにして、 マリコの肩にポンと手が置かれた。




「呪文を唱える声が強ばってるぞ。 どこかに恐怖心があるんじゃないのか?」




マリコの隣に立つドラコ・ マルフォイがにやりと笑う。
ローブの下のシャツの襟元から少しだけのぞく緑と銀色のストライプ模様のネクタイは
曲がることなくまっすぐに締められている。
銀色と緑色。 それは、 スリザリン生である印のカラーだ。
当然、 スリザリン生であるマリコの襟元にも
それと同じ色のネクタイが締められている。
ドラコの、 十一歳の髪型にしては背伸びをしすぎな、 
きっちりと撫でつけたプラチナブロンドが、 つややかに光を弾いていた。




「アップ!」




ドラコがさらりと唱えると、 地面に転がっていた箒は磁力に引き寄せられるように
その手に向かって飛びこんできた。
ドラコは箒をぎゅっとつかむと、 
マリコに向かってどうだと言わんばかりに笑ってみせたのだ。

マリコは驚き、 目を丸くしたまま、 瞬きすら忘れ
ドラコとその手に握られた箒を交互に見つめた。




「こんなの簡単さ。 
魔法使いなのに箒すらつかめないんじゃお先真っ暗だぞ?
・・・・そうだ。 何なら今度、 僕がマリコに手取り足取り教えてやってもいいぞ?」

「あらドラコ、 だったらあたしにも今度教えてよ!
手取り足取り・・・・ね」




ドラコの反対隣に立つパンジー・ パーキンソンが声を上げた。
ドラコは何か言っていたけれど、 マリコはもう聞いていなかった。
ふと、 視線は別の方向へと流れる。
彼もまたアップを一度唱えただけで浮かんだ箒をキャッチしていた。
____すごい・・・・ 思わず目をしばたたかせる。
マリコはゆっくりと視線を持ち上げた。
ドラコ同様、 いとも簡単に箒をキャッチしたのは誰なんだろうと確かめるために。
マリコの締めているネクタイとは違う色。
ひん曲がったまま締められている
赤と金色のストライプ模様。
____グリフィンドールじゃない・・・・! それを見て思わず身構えてしまった。
箒に乗る恐怖心とは全く違う気持ちで。

相手はマリコの視線に気づいたのか、 それか
マリコと同じように何気なく視線を流しただけなのかもしれない。

マリコの、 アジア人特有の黒に近い茶色の濃い色の瞳と
相手の、 透き通るような緑色の瞳が重なり合った。



「・・・・・・」

「・・・・・・」




ふたつの瞳が数メートルの距離で重なり合った瞬間、 少し強い風が吹き
マリコの、 短めな黒髪は絹糸のようにしなやかに踊った。
目が合った相手の、 くしゃくしゃな、 黒に近い茶色の髪も揺れて
前髪までもが風で持ち上がり、 相手の額に稲妻のような傷があることに気づく。




______ハリー・ ポッター・・・・!




それを見て初めて、 マリコは目が合い
こうして見つめ合っている相手があのハリー・ ポッターであることに気づいたのだ。
スリザリン生は決して快くは思っていない、 あのグリフィンドールのハリー・ポッターだと。
結構長いあいだ見つめ合っていたのかもしれないと、 マリコは思った。
ハリーは不思議そうな顔でじっとマリコを見つめている。
その透き通るような緑色の瞳は、 まっすぐすぎて
これ以上直視できなかった。
マリコは慌てて目を逸らした。 何事もなかったかのようにして。

そんな風にふたりが、 たった数秒間だけでも見つめ合っていたことに
パンジーにべたべたとされながらも、 ドラコが見逃すはずがない。
ドラコはじっとマリコの横顔を見つめた。
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