テニスと皇女様


4.
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4.その恋、取扱い注意!




どんな男であっても・・・・いや、男である以上
この痛みに耐えることはできないんじゃないかと思う。






「助けてくれてありがとう。清純くん・・・・」






人目につきにくい路地裏へと逃げこみ、百合香ちゃんは息を弾ませながらふわりと笑う。
少しだけチクリと痛む胸。
俺は彼女を助けたかもしれない。
だけど、こうして彼女を連れて逃げたのは助けたいだけじゃなかった。
俺自身がまだ、もう少し、少しでも長く一緒にいたかったからだ。
この瞬間を誰にも邪魔されたくないと思ったから・・・・・・。






「いやあー・・・・大したことはしてないよ。
でも今さらだけどさ、蹴り上げるのはやりすぎたかな?
相当痛がってたし・・・・」






百合香ちゃんはおかしそうに笑う。






「さっきのあの瞬間、清純くんが正義のヒーローに見えた」

「えっ!? 俺が?」

「うん! スパイダーマンとかスーパーマンみたいな・・・・」






______敵の股間を蹴り上げて女の子を助ける正義のヒーロー・・・・






そんな正義のヒーローなんて、お世辞にもカッコイイとは言えないな。






「お昼、食べに行こうと思ったけどさ・・・・
このまま街を歩いてれば、また見つかるかもしれない・・・・よね。
さっきはひとりだったからなんとか切り抜けられたけど、
これで助っ人なんかも出て来たら今度はそうも行かなさそうだし・・・・」

「・・・・ごめんなさい。私のせいで迷惑ばかりかけちゃって・・・・」






百合香ちゃんの視線は徐々に下へ下へと下がって俯いてしまった。
俺は慌てて首と手をぶんぶんと振る。






「違うよ・・・・! 誤解しないで?
そのー・・・・俺がむしろキミといたいんだから!
・・・・・・だから、さ・・・・よかったらお昼は俺の家で食べない?」

「・・・・え?」






怪訝そうな顔と声。
さすがに家に行くなんて提案はまずかっただろうか。






「あ、いや、百合香ちゃんが嫌じゃなければ。
無理にとは言わないからさ・・・・!」

「・・・・そんな・・・・! 嫌だなんてとんでもない!
清純くんさえよければ・・・・。
私が行って迷惑にならないかしら・・・・?」






______むしろ大歓迎です!






百合香ちゃんを自宅に呼ぶなんて俺、もしかして今日は超ラッキー!?







「狭いところだけど・・・・上がって寛いでね」






俺の家なんか百合香ちゃんの住む皇居の半分にも満たないだろう。
百合香ちゃんはコーヒーショップに入ったときのように
俺の家、庭、玄関先を興味深そうに眺めていた。






「・・・・おじゃまします」






家に上がり、俺が脱ぎ捨てたスニーカーまでも揃えてくれて立ち上がった彼女は
廊下のまんなかでもじもじとしている。






「ごめんね・・・・やっぱ、狭くて居心地悪い?
皇居の物置にも満たない広さかなあー・・・・」






こんなとき、氷帝の跡部くんが少し羨ましく感じたりなんかする。






「うううんっ!
素敵な家だなあって思ってたの。ごめんなさい、じろじろ眺めちゃって・・・・
私、お友だちの家に行くって言う感覚が初めてで今すっごくワクワクしてるの!」

「えっ!? そうなの?
同級生の家に遊びに行ったりとかは・・・・」

「んーんん・・・・。クラスに”友だち”って呼べるであろう子はいるんだけど、
授業が終わればすぐに迎えが来てまっすぐ家に帰って
お稽古か公務の打ち合わせばっかりだったから・・・・。
だからね、憧れと言うかひそかな願望だったの。
友だちの家に遊びに行くって、普通の女の子なら誰もがすること」

「その”初めて”が俺の家ってことか」

「うんっ!」






喜んでくれるのは俺もすごく嬉しいのだけれど、”友だち”か・・・・。
さっき、桃城くんと越前くんが来なかったら俺は
百合香ちゃんにキスできたっておかしくなかったけど・・・・
そんな雰囲気になっても、百合香ちゃんから見た俺は”お友だち”か。

ささやかに肩を落とすと、気だるそうな足音が聞こえて来た。






「清純? 帰ったのー?」






______げ・・・・っ!






そうだった・・・・・・。
百合香ちゃんを家に呼んだはいいが、姉ちゃんがいることをすっかり忘れていた。
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