ドリーマーへ30題


02.浴衣(手塚国光)
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至近距離恋愛





国光は生徒会長であり、 男子テニス部部長。
おまけに成績優秀。 おまけにスポーツ万能。 おまけに超がつくくらいのハンサム。

それに対してわたし。
帰宅部。 おまけに成績は下の下。 おまけにスポーツ苦手。 おまけに美人でも可愛くもない。

誰がどう見ても不釣り合いで正反対なわたしたち。

幼なじみ________

そうじゃなかったら、 国光はきっと、 わたしなんかと一緒にはいないはずだ。




「美咲、」




放課後。
どこの部にも所属していないわたしはさっさと下校するところだった。
廊下で。
国光はわたしの肩を背後から掴む。
そして、
来週、 おまえはなにか予定があるか? と。




「・・・・来週?」




そうだ。 と、 国光は頷く。

ああ、 もう________!

こうして廊下で一緒にいるだけで、 あちこちから視線を感じる。
特に女子とか女子とか女子の好奇と不躾な視線______。




「来週はわたし・・・・委員会の集まりが放課後にあるから。
って、 国光! あんただって生徒会長なんだから出席しないわけにはいかないでしょ」

「ああ。 それはわかっている。 委員会の後、 空いてるか?」

「空いてる・・・・けど。 なんで?」

「神社の夏祭り。 一緒行かないか?」

「神社の夏祭り!? あ、 あー・・・・っ! そっかぁー・・・・もうそんな時期なんだよね!
一緒に・・・・って。 わたしと国光のふたりで・・・・ってこと!?」

「あ、 ああ。 嫌なら無理にとは言わない」




神社の夏祭りは毎年、 国光と一緒にいっていた。 昔は。

家の近所にちんまりと建つ小さな神社。
普段はひと気のない静かな場所も、 この時期になると露店が並び、 
さまざまな音や声が響き渡り、 とても賑やかになるのだ。

国光とわたしはそんな場所に手をつないでいった。 昔は。

一緒にいかなくなったのはいつからだろう______。

そう。 確か小学校高学年になる頃だったはず______。




「う、 うううん! いく! いきたーい! いこうよ!
もう何年も一緒にいってないしさ」




懐かしいと、 そう思った。

国光は頷いた。
国光は滅多に笑わない。 そんな国光がそっと笑った。
その笑みはいつだってほんの一瞬しか見せてくれない。
うっかり油断してしまえば見逃してしまいそうなほどだ。




「では、 来週。 おまえの家に迎えにいく。
時間は・・・・そうだな、 また近いうちに連絡する」

「オッケー! じゃあねー」




くるりと背を向けて歩きだした瞬間、 ラケットバッグを肩にかけた国光は
わたしの背中に向かって言う。




「寄り道しないでまっすぐ帰れ」




______あんたはわたしの保護者かっつーの!




いつからだろう。

幼なじみのわたしたちの関係は変化していた。
小学校高学年になるまでのわたしたちはいつでも一緒だった。
小学校高学年になってからのわたしたちは、
一緒にいる時間が少しずつ減っていった。
手をつなぐこともなくなった。
代わりに、 国光は口うるさくわたしの世話を焼くようになった。
さっきみたいに寄り道しないで帰れと、 放課後に会えば必ず言われたし
テスト前になれば早めに予習・復習をするべきだと云々______。

ふんと鼻先で笑いながら上履きを脱ぎ、 ローファーを掴む。

黙ってればハンサムなのに、 口うるさい国光が部長じゃテニス部員も大変だ。




「美咲ちゃん、 今から帰るの?」




その穏やかな声の主は不二くんだ。
隣には菊丸くんもいる。
ふたりとも、 国光と同じようにラケットバッグを肩にかけて。




「うん。 委員会も当番もないしね」

「えー!? 帰っちゃうのぉー!?
美咲ー、 どうせなら練習見てってよおー!
オレ、 美咲なら大歓迎だにゃ」




わたしはローファーに足を突っこむ。
とんとん、 と、 つま先を地面に当てながら。




「お断りします」

「冷たいにゃー」




菊丸くんは唇を尖らせ、 頬を膨らませる。
こんな風に無邪気な彼のお願いなら聞いてあげたいし、 
急いで帰る理由もないから練習を見にいってもいいのだろうけれど・・・・・・
ギャラリーの女子の視線が痛く、 正直、 その場には一分一秒たりともいたくない。
______ちなみに、 そのギャラリーの女子たちのお目当ては不二くん。______




「不二、 菊丸。 こんなところでのんびりしていると部活に遅れるぞ」

「ああ、 手塚。 大丈夫。 今からいくよ」




不二くんは口うるさい国光に慣れて(?)いるのか、 さらりと笑顔で受け応える。

______そう、 不二くんにつづき国光もだ。 
このふたりは校内で一・二を競うくらいにモテるのだ。
当の本人たちはそんなことに気づいてもいないのだろうけれど。______




「美咲、 おまえもさっさと帰るんだ」

「へーいへいへい。 わかってますって」




それだけ言って国光は、 さっさとわたしの前を横切り、 テニスコートへと向かってゆく。
まるでさっきの誘いも約束もなかったかのような態度で。
やれやれ。 なんて冷たい男だろう。
今にはじまったわけじゃないけれど______。
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